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「世界樹の樹士」

というわけで、序文のみブログでも紹介。

考えて見れば、世界樹って時点でチープなイメージを抱かれるのかもなーと思ってみたり。

これ書いた当時も、他になにか良い呼称がないもんかと頭を抱えた記憶が。

個人的には、チープなネタでも、それなりに読ませるものを書けるのが腕だとも思うんですが。

その境地には、まだまだ遠いと言わざるを得ません(^_^;)

     序・夜明け前

 波の声。
 寄せては返す、ひとつとして同じ形のない波は、たとえそれを見ている者がいなくとも、繰り返し繰り返し、生まれては消えていく。
 夜明け前。
 暗い海を望む岩だらけの浜辺。波打ち際にうずくまる竜の背に似た岩の上に、小さな人影がひとつあった。
 既に背後の山に沈んでいった月が残した欠片のように、仄白い姿はそこに座っている。
 十回目の春を迎えるには、まだ時間がありそうな、痩せた少年だ。
 ボサボサに伸びて表情を隠すフケまみれの髪と、目を疑うほどに痩せこけて垢じみた手足は、汚れていてもなお白い。
 時折、潮風が揺らす前髪の間から見える、活力のない瞳は血の朱。
 春を迎えたとはいえ、まだ夜明け前の寒さは染みいるようだ。それなのに、その少年は薄汚いボロを身体に巻き付けているだけだ。
 余程寒いのだろう、しきりにあかぎれだらけの両手で粟だった二の腕を擦っている。
 その二の腕には大きな青痣がいくつもあり、よく見れば血の気がない唇の端も裂け、固まった赤黒い血がこびりついていた。
 寒さに耐え、冷たい潮風に吹かれながら、少年は待っていた。
 それは、雨を避けていた軒先で、窓越しに聞いたおとぎ話。
 悪戯を叱る母親が、子供に言い聞かせていた。
 海の向こうからやってくる黒い影が、悪い子供を夜明けと一緒に暗いところへ連れ去ると。
 それほど真に受けたわけではなかった。
 ただ、ここでないどこかへ連れて行ってくれるのなら、たとえそれが悪魔だろうが、魔神だろうが、なんでも良かった。
 少年にとって、その日を生きるために盗みを働くのは日常だ。それほど罪の意識は無かったが、それは良くない事だとは知っている。だから、もしそのおとぎ話が本当なら、自分は連れて行ってもらえるはずだ。
 ──いくつ波を数えただろうか。
 水平線、左の方。
 空と海の間に、薄くゆっくり光の線が現れ、空が少しずつ白んでいく。
 夜が明ける。
 それにつれて、遙か水平線の向こうに、なにかが見えてきた。
 冷たい空気は澄み渡り、驚く程遠くまでを見通せる。
 それは、大きな山脈のように見えた。
 その向こうには、天へと続く恐ろしく巨大な坂道のような何か。
 伝説は語る。
 それは、慈悲深い大地の女神が姿を変えたものだと。
 世界を抱え込む、超巨大樹。
 人はそれを世界樹と呼んでいる。
 山脈に見えるものは、その根だという。
 無感動にそれを見つめる少年をよそに、太陽は水平線から姿を現していく。
 太陽が完全に地を離れた時、少年の口から隙間風のような溜息が漏れた。
 所詮はおとぎ話だったということだ。
 朝日は少年の影を、長く長く地に伸ばしている。
 自分の影を目でなぞった少年は、ビクリと身を震わせた。
 朝日が溶かし忘れた夜の漆黒。
 光を切り取った後に残る闇の欠片。
 それは漆黒の長衣を引き摺り、つばの広い闇色の帽子を被っていた。
 長く伸びた影の先に、人の形をしたそれがいた。
 世界に穿たれた虚空のように異質なそれは、驚きと恐怖で動けない少年に、起伏の激しい岩場の上を滑るように近づいてきた。
 その間も長衣の裾はほとんど揺れず、つば広の帽子には潮風も届いていないのか動かない。
 それは少年との間に微妙な距離を置いて、立ち止まった。
「子供よ」
 ところどころに裂け目の入ったつばの向こうから声が聞こえた。もしも北風が喋ったのなら、きっとこんな声で喋るのだろうと少年は思った。
 長衣を割り、骨張って大きく、真っ白な手が少年に差し出された。
「私と共に、来るか?」
 その手を取るには一歩を踏み出し、自分の手を伸ばさなければいけない。
 そういう距離だった。
 少年は怯えた目で、その手をしばしの間見つめ、それの顔を見上げる。
 その時、帽子のつばがほんの少し持ち上がり、その瞳が見えた。
 少年は息を飲む。
 血の朱。
 深紅の双眸。
 少年と、同じ。
 魅入られたように、その瞳に映る自分の姿をみつめ、少年は一歩を踏み出しかけた。
「私と共にいくならば」
 ギロチンが落ちるような声。
「その先には苦痛に満ちた戦いが待っているだろう。──それでも、お前は共に来るか?」
 少年は踏み出しかけた足を止め、自分の手と身体を見下ろした。
 血の滲む、あかぎれだらけの手。
 痣だらけの、痩せこけた身体。
 それらを引き摺り生きてきたそう長くはないはずの時間の中で、肉体的な苦痛も、精神的な苦痛も、すでに苦痛ではあり得なくなってしまった。
 ただ、昨日と同じ明日が続いていくことこそが、耐え難い苦痛だった。
 光の無かった少年の瞳の奥に、小さな小さな灯りがともる。
 最後に残った意志を振り絞り。
 少年は手を伸ばした。
 みずからの意志で。
「お前は選択した」
 少年の目の前で闇が広がった。
 それは少年を取り込み、包み込む。
 どこか安らぎに満ちた闇の中、遠くにそれの声が聞こえた。
「これよりお前の進む道には、苛烈な戦いと死が待っているだろう。だが……」
 少年は、身を委ねた闇の中へ、ゆっくりと落ちていった。
「お前はもう、独りではない」
 濃い、緑の香りがした。

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