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「乾いた掌」23

これで三章が終わりです~。

できれば早いところ終わらせたいところ。

手を抜くということではありませんが(´・ω・`)


            3

 それからの二週間、スノウとドウジが銃の習熟訓練の為、郊外でひたすら時を過ごすその一方、ガランを始めとした実働部隊は、さらなる情報収集に勤めながら、水面下で着々と計画を進めていた。
 そして、収穫祭──計画実行の前夜。
「それでは、作戦の最終確認を行う」
 隠れ家に使っている宿屋の二階に、作戦に参加する部隊の指揮者が集まっていた。
 撹乱を担当する隊長が三人、後方支援が二人。そして、不慮の事態に対応するために用意してある一部隊の隊長たちに加えて、狙撃担当のスノウで総勢七人。
 タカオは待機の部隊長。ドウジとショウヘイが撹乱担当の部隊。ガランは後方支援の指揮と兼任しての総指揮。
 後の二人はスノウの知らない顔だったが、会議の最初に受けた紹介によれば、名はトオリとガザミ。民間からの協力者との説明だったが、ひょっとしたら組織の手の者かもしれんな、とその立ち居振る舞いからスノウは感じた。
「狙撃場所は、東大通りのここ」
 そう言いながら、ガランは目の前に広げた都の地図、東側の大通りの中程に人差し指を置く。
「カクギョウ様には今日下見をしていただきましたので、お解りかと思いますが、ここ」
 今度は狙撃場所から離れた場所を指さす。
「この場所にある大木の上から、奴を狙っていただきます」
「……大丈夫でしょうか。地図で見ると六十丈近く離れているように見えますが」
 そう不安を口にしたのはトオリ。彼はスノウ個人をよく知らないし、射撃訓練も見ていない。不安に感じるのは仕方がないだろう。
「ただ距離を通すだけなら百丈は通せる。だが、正確さと威力を考慮に入れると、それくらいが限界だ。さらに言うなら、それ以上近くになると警備に見つかる危険性も高くなる。奴らは弓での狙撃は気をつけているだろうが、この距離なら通常の弓で狙える間合いのかなり外だ」
「命中率に関しても問題ない。修練に立ち合わせてもらったが、この距離ならば十分に命中を期待していい」
 そうガランが請け負うと、トオリは納得したのか頷いて引き下がった。
「撹乱の二部隊は時間を合わせ、北と西、それぞれの大通りで騒ぎを起こせ。ショウヘイが北、トオリが西だ」
 名を出された二人は顎を引いて頷く。
「そしてドウジ。お前の部隊は警備の混乱具合を見つつ、それに乗じて行列の足止めを頼む。ガザミは撤収時の補助と、警備の撹乱。そして、カクギョウ様」
「む」
「あなたがこの作戦の要です。よろしくお願いします」
「ああ」
 布に包んだままの銃を一撫でして、スノウが頷いた。
「それでは、作戦計画に変更はなし。それぞれの持ち場について、決行に備えてくれ。皆、武運を祈る。解散!」
「「応!」」

        **********

 季節はすでに秋になっている。
 凍えるほどではないが、早朝の風は冷たくなってきている。
 スノウはまだ空が暗い内に、狙撃場所へ着いていた。周りの建物より遙か高くにそびえる大木は、季節で葉を落とさない種類のため身を隠すのに都合が良かったが、念を入れて外套の上からも念入りに偽装を施している。
 厚手の外套に施した枝葉がよい風よけになって、快適とは言えないまでもまだ楽だった。
 そろそろ空は白々と明け始めてきており、明けガラスが鳴き始めている。
 すでに何度も繰り返している、狙撃体勢と銃の確認。
 銃を構えて、標準器から狙撃地点をのぞき見る。
枝葉の間から複数の建物が見え、さらにその隙間から大通りが見えた。
 針の穴というほど狭くはないが、大して広いとは言えない空間。
 実際の幅は二間程度だが、狙う距離と対象を考えると十分ではないだろう。
だが、不思議なほどスノウには不安が無かった。半分の隙間であろうと、十回狙って十回通す自信がある。
 実際のところ、この距離からの狙撃になったのは、もっとも適した場所を吟味した結果であり、距離や隙間は結果でしかない。
 六十丈の距離であっても、手を伸ばせば触れられるような不思議な感覚。
 スノウは銃を元の通り抱え直し、枝の上で幹に背を預けて目を閉じる。
 後は、時間になるのを待つだけだった。

 スノウが目を開く。
 都が賑やかになりつつあった。収穫祭が始まったようだ。
 太陽は頂点近くまで昇っている。
 そろそろ時間が近い。
 城での式典後、大通りを練り歩く予定になっているはずだ。
 コロウたちの行列が最初に通るのが、狙撃場所である東大通り。
 スノウが身を隠しているところからは、枝葉に多少遮られているとはいえ、都のかなり広い範囲が見渡せる。
 ニッショウという名の国は既に無くなっているというのに、去年見た収穫祭と、なにも変わらないように見えた。
 ──俺は、なにをやっているのだろうか。
 不意に現実感が乖離する。
 ここにいるのは俺だろうか、それとも俺のふりをした何者かだろうか。
 ここはいるべき場所か、いてはいけない場所なのか。
 するべきこと。
 しなければいけないこと。
 果たしたいこと。
 果たせなかったこと。
 俺は……。
 その時、都の雰囲気が変わった。
 城の方から、賑やかさが近づいて来る。
 花嫁行列が始まったのだろう。
 スノウは我に帰る。
 その時が近い。
 しばしの時間が過ぎる。
 行列は東通りを順調に進んできていた。
 狙う隙間から、行列の先頭が見える。
 どこで誰が見ているか判らない。慎重に、ゆっくりと銃の準備を始める。
 本体の側面にある小さな取っ手を引き、銃身の一部を開放する。銃に「素」を充填するための準備だ。
 身体の芯から、ずるりと精力を引き抜かれる感触。
 時間にして約十秒。本体に付いている小さな金具が、微かな音を立てて本体に引き込まれる。
 充填が完了した銃の取っ手を戻し、射撃準備は終了。
 それとほぼ同時に、都のあちこちから煙が上がるのが見えた。
 ショウヘイたちが動き出したようだ。
 騒ぎが伝播していく。
 行列の要、四頭掛かりの、一際大きく豪勢な台輪が、丁度狙撃するための隙間に止まった。
 台輪の上に、男と女がいた。
 スノウの腹の底を、尖った塊がごろりと転がる。
 金糸銀糸の豪華絢爛な礼装をまとったコロウ。
 そして、その横に純白の花嫁衣装に身を包んだ妻、エジュン。
 ──いや、「元」妻か。
 引き金を引かずとも、そのまま射殺せるのではないかと思うほどの苛烈な視線をスノウは二人に注いだ。
 騒動が起こって不安なのか、エジュンがコロウに抱きつく。
 こちらに背を向けた状態だ。
 引き金に掛けたスノウの指がぴくりと震える。
 まだだ。
 今撃っても、弾がエジュンの身体を貫通してコロウに当たる可能性は五分。さらに、コロウを射殺できる可能性はもっと低い。
 コロウが周りの兵に怒鳴っているのが見えた。
 エジュンはコロウから離れる気配は無い。
 行列の前方で、スノウのところから見えるほどの爆発が起きた。ドウジが行動を起こしたのだろう。
 すると、コロウがなにごとか命令を出し、すぐに台輪が後退し始めた。
 まずい!
 このままでは狙撃の射界から外れてしまう。
 エジュンはコロウから離れない。
 そして、コロウが射界から外れる寸前。
 スノウは引き金を引いた。
 ほんの一瞬が、無限に引き延ばされたように奇妙な感覚。
 当たる、という事実が先にある違和感。
 まる撃ち出された弾丸に意識が乗り移ったかのごとく、台輪上の二人の姿が大きくなった。
 弾丸は、エジュンの背中からその心臓を貫き、コロウへ突き刺さる。
 着弾の衝撃で、コロウとエジュンが一塊に倒れ込んだ。
 一拍おいて、再び台車が止まる。
 ──やったか。
 銃を下ろし、素早く次弾の充填を行いながら、スノウは目を凝らした。
 コロウが自分にのし掛かるエジュンの身体を押しのけ、値の吹き出る腕を抱え、悲鳴を上げて転がり回るのが見えた。
 しくじった……!
 次弾の装填は始めたばかりだ。二射目が間に合うかどうか。
 その時、身の丈七尺以上はゆうにあるざんばら髪の大男が、異様な身軽さで台輪の上に飛び乗ってきた。
 誰だ?
 疑問に思ったスノウが視線をその男に注いだ瞬間、まるでその視線を感じたように、大男が素早い動作で振り返った。
 遠い距離を隔てて、確かにスノウと大男の視線が絡み合う。
 大男が「にやり」と不気味に笑ったのが、スノウにははっきりと見えた。
 その瞬間、その男が誰なのが判った。
 奴が、ハグンか。
 その時、台輪が動き始めたが、まだ次弾の充填は終わらない。追撃の手段が無かった。
 牛の歩みのようにじりじりと時間が過ぎる。
 そして、コロウの姿が射界から外れると同時に、次弾の充填が終わった。
「くそっ……!」
 思わず悪態を吐く。
 そんなスノウの姿が見えているのか、ハグンはにやつきながら、視界を外れるまでスノウの方を見つめていた。
 スノウは歯がみしたが、ここにもすぐに警備兵が駆けつけてくるだろう。今は一刻も早くこの場から逃げて、ガランたちと合流しなければいけない。
 銃に充填した「素」を暴発避けに開放しつつ、木を下りようとしたところで、スノウは胸元に違和感を感じてそこに手をやった。
 手に触れたのは、着物の下にある首飾り。
 今の今まで、そこにそれがあったことを意識していなかった。
 思い出の品ではあるが、とうの昔にその意味を失ったものだ。
 意味が無くなった後も、なぜか身につけ続けていたことに今更気付く。
 そしてそこでようやく、自らの手でエジュンの命を奪ったのだということに思い至った。
 感慨は無かった。
 哀しみも、苦しみも、ましてや喜びも、達成感もない。
 ただ、コロウを撃つために邪魔だったから、撃っただけだ。
 そこに何も無いことにだけ、スノウはほんの少しだけ寂しさを感じる。
 襟から首飾りを引き抜き、細い銀鎖ごと無造作に引き千切って放り捨てた。
 大通りの方を見ると、騒ぎは早くも沈静化しつつあるようで、喧噪が小さくなりつつある。
 急いで木を下り、合流地点に向かって駆け出す。
 スノウは、首飾りがどこへ落ちていったか確かめもしなかったし、振り向きもしなかった。

            4

         **********

 少年が我が儘な姫に仕え始めて、最初の夏。
 避暑のために都を離れ田舎へやってきた少女は、やはりというかなんというか、避暑に訪れた先でも不平や不満を垂れ流していた。
 父である国王は徳の高い王として国民に好かれてはいたが、治世の力についてはやや凡庸で、昨今の国内不安もあって遊行の余裕など無い。
 上の姉二人はすでに国政へ参加しており、それなりに有能ではあったが、国王と同じように多忙だった。
 王妃は亡くなられて随分経つ。
 それゆえ、避暑といっても幼い姫だけの遊行だ。
 父王は少女を愛していなかったわけではなく、むしろ溺愛していたと言っていいだろう。そうでなければ、娘が路地裏で拾ってきた少年を、本人が望んだからといって遊び相手として側に置かせたりはしない。
 とにもかくにも、大体において少女の不平不満は、少年への八つ当たりや無理な要求となることが多かった。
 その日の昼間も散々に振り回され、少年は疲れ果てていた。だが、いまだ少女のご機嫌は斜めなままで、同行している側仕の者たちも困り果てていたのだった。
 そこへ、避暑用の別荘で働いていた地元の老婆が、一つの提案を出した。
「今は蛍の時期だで、見にいってみたらどうかね?」
 他に少女の機嫌をとる手段など持たない側仕たちは、その提案に乗ることにした。
「うわ~~、きれい……」
 少女は我が儘だったが、大事に育てられていたため、世間知らずでもあった。
 そのせいで、世間では平凡な出来事や、大したことでなくとも、大層感心したり、感動をあらわにすることも多い。
 少年にとって少女の我が儘に付き合うのは大変なことではあったが、そういう素直な面を見せている時の少女の表情が大好きだった。
 それを見るためなら、どんな苦労も厭わないつもりだ。
 静かに流れる川の端。
 星明かりの降る中を群れ飛ぶ蛍たちは美しく、少女を感動させるには十分だった。
「足下が暗く、危のうございます。駕籠からお出になりませぬよう、お願いいたします」
 思わず駕籠を出て蛍を追おうとする少女を、慌てて側仕が制止する。
 途端に膨れ面になる乗少女だったが、側仕に譲歩する気はない。
 しかたなく、少女は少年を呼びつけて言った。
「ねえ、蛍を捕まえてきて」
 暗くて危ないのは少年でも同じ事だが、少女のお願いに嫌というつもりは毛頭無い。
 案の定、川辺の石で滑り、濡れ鼠になりながらも、少年は木の枝に蛍を留まらせて少女へ手渡した。
「わあ、ありがとう、スノウ」
 少年──スノウは、その笑顔がこの世で最も美しいと思った。
 それを守れるなら、それを見ていられるなら、命も惜しくないと思った。
 それだけでもいい、そう思った。
「エジュン様、おれ軍人になろうと思います」
「へえ、あなた軍人になるの?」
「はい。それで、エジュン様をずっとお守りしたいんです」
「ふーん、そうなの。頑張ってね」
「それで、軍人になって位が上がれば、字がもらえます。そうなったら、おれ、今日のことから字を付けようと思うんです」
「どんなの?」
「え、いや、まだ決めてないですけど」
「なあに、それ。馬鹿じゃないの?」
 そう言って、エジュンは鈴を転がすように笑った。
 こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
スノウは星空を見上げ、そう思う。
 流れ星が一筋、夜空を走った。

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