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「乾いた掌」19

キリのいいところまでということで、ちょっとだけ長目。

さて、MMDもデンプシーロールと套路を進めないといけませんね。

二次創作(ちなみに東方)の短編も、ほっぽってある長編も進めないと。

やることいっぱいだ-。
        三章・ヘダテ

           1

 スノウがニッショウの都近郊まで辿り着いたのは、半月ほど後のことだった。
 軍人の足ならば、もっと早く辿り着ける距離だったが、街道にはガリョウ兵が巡回していることが多く、余計な厄介ごとを避けるため、道を選んで進んだせいで時間がかかってしまった。
 明日には都へ入り、潜伏しているガランたち実働部隊と合流する予定だ。
 街道筋の宿場町から少し離れて、野宿の準備をする。火を起こしてから軽い食事を済ませ、身体を休めていると、タカオが口を開いた。
「あの、将軍」
「タカオ、言おうと思っていたのだが」
 いきなり出鼻を挫かれて、タカオがまばたきする。
「は、なんでしょう?」
 苦笑いしてスノウは言った。
「その将軍というのは、やめんか? 一応人目を避けているとはいえ、誰かに聞かれては困るだろう。それに、事実上以前の軍体勢は解体して、俺は将軍職ではないわけだしな。今はガランが中心となっているのだから、なおさらだ」
「は……、では、どうお呼びすればよいでしょうか」
 やや納得のいかない様子でタカオが訊き返す。タカオにとって「将軍」という呼称は最高の敬称なので、他にスノウをどう呼べばいいのか思いつかないようだ。
「名前で構わん」
「では、スノウ様でよろしいでしょうか」
 頷くスノウ。
「話の腰を折ってしまってすまんな。で、なにを言いかけていたのだ?」
「はい、その……。よろしかったのですか?」
 言葉を選びながら慎重に喋っているのはわかるが、遠回り過ぎてなんのことを差しているのかがわからない。
「なんのことだ」
「……ケイ殿と、子供たちのことです」
 言いにくそうにタカオがそれを口にすると。スノウは苦しいような、悲しいような顔で空を見上げた。
 頭上に張り出した梢の間から、満天の星空が覗いている。
「よかったのか、とはどういう意味だ?」
 スノウの口調は高圧的でも、責めているものでもなかったが、タカオは目に見えて恐縮した。
「ケイ殿は将……スノウ様に頼っておいでのようでしたし、子供たちも随分懐いているように見えましたので……」
「そういうふうに見えていたか」
 あの場所に頼り、慰められ、心惹かれていたのは自分の方だと思っていたが。端から見ると、また違っていたのかもしれない。
「その……無礼を承知で言わせていただきますが、スノウ様は将軍として十分すぎるほどの実績と実力をお持ちでした。ですが、その、……御伴侶に関しては、けして幸せとは思えませんでした」
「…………」
 エジュンの悪癖に関しては、王室関係者どころか、都の民には周知の事実だった。
 それでも、あまり表だって酷評されなかったのは、ひとえにスノウの将軍としての実績と人柄を皆が認めていたからである。
 その二人の婚姻が政治的な意味しか持っていないだろうと、ほとんどの人間は思っていたし、世論としては、厄介者を押しつけられたスノウに同情的だったと言っても良い。
 また、スノウが高い社会的地位と権力を持っているにも関わらず、愛妾や稚児の類を囲っている気配もなく、エジュン懐妊の話が出るまで、将軍は不能なのではないかという噂まで立つ始末だった。
 ただ、その子供すら、本当に将軍の子なのか、という疑問は当然のように巷間にあったが。
 タカオもその噂は耳に入っていたが、さすがに口にするのははばかられた。
「彼女らに囲まれているスノウ様を見て、その姿がとても幸せそうに見えました。自分はニッショウ軍人としてスノウ様を尊敬しておりますが、軍人として采配を振るっている時よりも、ああして普通の生活を送っているお姿の方が、ずっと自然な気がしました……」
 どこかもどかしく、訥々とタカオは語る。
 自分の内でも整理ができていないことであり、かつ納得のできることではないことを、なんとか言葉にしようと悪戦苦闘しているのが端からも判る。
「そうなのかもしれんな……」
 星空を見上げたまま、スノウはぽつりと言った。
 何も持たないところから、何かを求めて生きてきた。
 地位も、名声も、財産や権力も手に入れて、それはそれなりに満足していたと思う。
 だが、それらを総て失った今、失ったことそのものに対して、格別の怒りも悔恨も湧いてこないのは、スノウ自身不思議なことだった。
 あるのは、ただ裏切りに対する激しい怒りと憎悪だけだ。少なくとも、自分ではそう感じている。
 それに比べて、長いとはけして言えない時間を過ごしただけのあの場所を離れたことが、まだ半月しか経っていないというのに、深い寂しさを胸に運んできていた。
 だが、事実を知った今、あの場所でのうのうと生きているわけにはいかない。
 背中を預けた友。
 居場所を、すべきことを与えてくれた主君。
 信頼と敬愛を惜しみなく注いでくれた部下たち。
 もはや、取り戻す術のないすべて。
 落とし前をつけなくてはいけない。
 そして、確かめなくてはいけない。
 天から授かった命の行方を。
「……オレは、あそこに行くべきじゃ、なかったのかもしれませんね……」
 気落ちした声で、タカオは小さく言った。
「そんなことはない。お前たちが生き延びて戦っているなら、それの手助けをするのは、俺の責任でもある。気に病むな」
「は……」
「もう先にろ。俺が火の番をしている」
「そんな! オレは寝なくても構いません、スノウ様がお休み下さい!」
「おそらく、これから大変な日々が続く。休める時に休んでおけ。しばらく経ったら交代しよう。俺は少し星を見ていたいのでな」
「そ、そうですか。では、申し訳ありませんが、先に休ませていただきます。すぐにでも起こしてもらって構いませんので」
「ああ」
 スノウが微笑んで頷くと、タカオは一礼して外套にくるまり横になった。
 横目でそれを確認してから、スノウはまた夜空を見上げる。
 雲一つ無い満天の星空は、変わらずそこにあった。
 今までも、そしてこれからも、星はそこにあるのだろう。
 街道を外れた森の中。
 夜の森は気配に満ちて、なおかつ静寂にも満ちている。
 焚き火の中で、薪がパチリと爆ぜた。
 スノウがそうして星を見ていた時間は、そう長くなかったはずだが、タカオはとうに寝息を立てている。寝付きの良さは、優秀な兵の条件の一つだ。
 確かスノウが覚えている限り、タカオは二十を越えるか越えないかの年だったはずだ。
 年の割にやや幼い印象がある純朴な青年が寄せてくれる無垢な信頼は、スノウに残った数少ないものの一つなのだろう。
 本人に聞いたところでは、農村出の三男坊とのことだ。そのタカオが軍に入るきっかけとなったのは、スノウがまだ一部隊長だった頃の事件。もう十五年以上前の話だ。
 当時のニッショウは多くの夜盗が闊歩し、力の強い地方豪族との関係もきな臭く、やや荒廃した状態だった。
 その現状を憂慮した王により、正規軍の増強と同時に、一つ一つ丁寧に国内の不安を取り除く政策が進められてるさなかのこと。
 野盗に対して討伐が基本となるのは仕方がないが、豪族たちとの関係も平和裏に済むことの方が珍しく、結局は軍事行動に発展することが多かった。スノウが異例とも言える出世のもととなった手柄の大半はこの頃のものである。
 その時のスノウは、一部隊を率い、南部の湿地帯沿いに頻出していた野盗の討伐任務に当たっていた。
 よくある話ではあるが、スノウの部隊が野盗に襲われていたタカオの村を救った。
 その際、タカオが追い詰められた野盗の頭目に人質に取られたり、それをスノウが助けつつ頭目を斬り捨てたりといったことがあった。
 そのことを、幼心にずっと覚えていたタカオは、三男坊という身軽な立場であったこともあり、村を出て軍に志願したらしい。
 ニッショウは比較的差別や偏見の少ない土地柄だったが、それでも出自の怪しく卑しい上に年若いスノウは、頻繁に危険な任務や国境近くの過酷な任務を課せられることが多かった。
 常に危険と隣り合わせだったが、逆に手柄を立てる機会も多かったと言える。
 タカオにとっては大切な思い出なのだろうが、当時のスノウにとっては、比較的よくある任務の一つだったに過ぎない。
 忘れていたわけではないし、タカオの気持ちを軽く見るつもりもない。
 だが、その一件に関しては、部隊の初動や展開に問題があり。本来ならば村に被害を出さずに野盗たちを処理できていたはずだった。
 武勇伝と見る向きもあるだろうが、スノウに言わせれば、己の失策で無駄に村人を危険にさらしてしまっただけだ。
 タカオにも、ある機会にはっきりそう伝えたことがあるが、それでもタカオの尊敬は毫ほども揺らがず、逆にそうしてスノウが本音を晒したことに、ますます信頼を深めた様子ですらあった。
 近衛に選ばれた兵たちの中には、タカオと同じくスノウに憧れて軍に入った者が多かった。
 自ら望み、とても簡単とは言えない数々の難関を越えて近衛になった者たちだ。その情熱に溢れた姿に、スノウも一度となく感動させられたし、彼らのためにできるだけの便宜を図り、また交流を持つように努めた。おそらくスノウ配下の兵で、スノウが言葉を交わしたことのない者は、一番下位にも一人としていないはずだ。
 物心ついた時には、血縁者どころか自らの身体以外にはなにも持っていなかったスノウにとって、彼らは何にも代え難い仲間でもあった。
 ふと、ケイたちと過ごした時間が胸中を過ぎる。
 ……あれが、家族というものなのかもしれんな。
 自分も、確かにそこにいた。
 あのぬくもりは、エジュンとの生活には欠片も存在しなかったものだった。
 思い起こせば、それはエジュンだけが悪かったとも言えないと、スノウは思う。
 己が決定的に他人との付き合い方が下手なのだという自覚があった。
 心のどこかで、真面目に努めてさえいれば、報われると思っていた。
 確かに、そういうこともあるだろう。
 だが、自分がしたのは、問題に目を瞑り、耳を塞いでいたたけのことではなかったか。
 エジュンが自分を裏切り、売国にまで走らせた事実に対し、己に何の咎もないとは言えない。
 なればこそ、見届け、決着をつける責任が自分にはあると思う。
「そう……それだけだ」
 知らずにこぼれた呟きが誰に向けられたものだったのか。
 それを知るものは、少なくともこの夜の帳の中にはいなかった。

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