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「乾いた掌」18

うーん。

これだけでもカテゴリ別にした方がいいですかね?

どちらにしろ、まとまったらHPに掲載するつもりではいるんですが。

長い長い沈黙が二人の間に横たわる。
 どれだけ経った後か、スノウが不意に口を開いた。
「…………子は」
「……なんでしょう?」
「子は、どうなったのだ?」
 一度は聞き返したタカオだったが、すぐにエジュンが懐妊していた子のことだと気がつく。
「申し訳ありません。そのことについては、また調べがついておりません。ただ、エジュン様が人前に現れるようになったのは、つい最近の話です。それまでどこに隠れていたのかも、今現在判っておりません。いずこかで出産している可能性はあるかと……」
 そこまで聞き、スノウは静かに立ち上がった
「タカオ、ここまでくるのに随分疲れただろう。すぐに風呂の用意をするから、旅の汚れを落として、今日はもう休むといい」
 今までの会話が無かったかのようなスノウの平静な口調に、タカオはいぶかしく思ったが、すぐにその言葉の無いように慌てる。
「いや、将軍に風呂の用意をさせるなど! 言いつけていただければ、いくらでも自分で!」
「構わん。つまらん遠慮はするな」
 そう言って太い笑みを見せるスノウ。
 明るい笑顔に見えたが、なぜかタカオは背筋に冷たいものが這うのを感じた。
 タカオが言葉を失っている間に、スノウはさっさと離れから出て行く。
 後に一人残されたタカオは、暮れ始めた空を縁側越しに眺め、細く溜息をついた。

 その夜、寝床を出たスノウは、縁側に座って月を見上げていた。
 恨みを込めてこちらを見つめているような、下弦の月。
 ──いや、そう感じるのは自分の心持ちのせいか。
 この離れで生活を始めてから、折りに触れて月を見上げているような気がする。
 もともと嗜み程度には風流を解しているつもりだったが、新しい生活の中で眺める月は、それまでと全く違っていた。
 はっきりとそう感じたのは、老人の教授を受けてから、初めて月を見た時が最初だ。
 正確に言えば、月だけでなく、総てのものが生まれ変わったような感覚の変化を感じている。
 だが、今見上げている月は、昔から見ていた月のような気がしていた。
 部屋の中を振り返ると、スノウの布団の隣に敷かれた布団で、タカオが寝息を立てている。
 ふと、泥土のような憎悪が肺腑を満たしていくのを、スノウは自覚した。もちろんタカオに対してではない。
 裏切りか。
 衝撃が無かったわけではない。
 哀しみがないわけではない。
 憎しみもある。
 怒りもある。
 しかし、心のどこかで「やはり」と感じている部分もあった。
 確かに、妻は決して貞淑な女ではなかった。
 本人に隠すつもりがあったのかは知らないが、貴族や王族にありがちな快楽主義者で、悪い噂がスノウの耳に入ったことも一度や二度ではない。
それはスノウが側付きとして使える以前からそうであったし、伴侶となってからもまったく変化がなかった。
 いつかは変わってくれるかもしれぬ。
 そんな淡い期待を抱きつつも、スノウは何も言わなかった。
 スノウはエジュンを本当に愛していたし、エジュン自身も、悪い噂は絶えなかったものの、スノウの妻として、それなりに振る舞っているように見えた。
 好意もあると思っていた。
 しょせん、俺の思い込みだったと言うことか……。
 憎悪の汚泥から、ふつふつと怒りの泡が浮かび上がり、弾ける。
 スノウは一度立ち上がり、障子を閉めた。タカオは旅の疲れからか、それともスノウに会えた安心からか、完全に熟睡しており起きる気配は無い。
 だが、スノウは今の自分をタカオに見られたくないような気がしていた。
 また縁側へ座り直したスノウは、かつて忠誠を捧げた王の顔を思い出す。
 友を、部下を。
 もう二度と帰ってこない者たちを思う。
過ぎ去った時を、幸せだと思っていたはずの時を思う。
 怒りの薄皮が、一枚ずつそれらを覆っていく。
 ふーー、と瘴気のような吐息を吐き出したスノウの視界で、なにかがちらりと引っ掛かった。
 見覚えのあるそれへ、ゆっくりと目を向ける。
以前、霊送りの時に見た、仄白い姿の幼子がそこに立っていた。
 その姿はやはりぼんやりとしていて、実体があるのかどうかも怪しいものだ。
「……お前は一体なんなのだ?」
 ただの幻覚なのかも知れないが、スノウの心のどこかに引っ掛かるのだが、その理由が判然としない。それに苛つきながら、スノウはその幼子の姿へ訊く。
 スノウの言葉が聞こえているのかいないのか、少女はやはり以前と同じように、悲しげな瞳でスノウを見つめながら、なにかを伝えたがっているように口を動かす。
 声が小さいのか、そもそも声が出ていないのか、スノウにはなにも聞こえない。
「……なにが言いたいのだ?」
「──スノウさん?」
 突然横合いから声を掛けられ、スノウは驚いて振り向くと、夜着のケイが肩掛けを羽織った姿で母屋から近づいてくるところだった。
「誰か、おられるのですか?」
 ケイに尋ねられ、スノウは幼子の姿へ目を戻すが、前回と同じようにその姿はもうどこにもなく、そこに何かがいた形跡すらなくなっている。
「……いや、独り言だ。月を見ていたのだが」
 下手に説明すると、逆にケイが心配するだろうと思ったスノウは、再度見たあの姿に関しては何も言わないで済ませることにした。
「お月見には、少し寂しいですね」
 そう言って下弦の月を見上げ、ケイはそっとスノウの隣に腰を掛ける。
「収穫祭の頃には、さぞ見応えのある月になっているのだろうがな」
「…………スノウさん、行かれるのですか?」
 いきなり、短くケイが訊いてくる。もちろん、スノウには何を訊いているのがすぐに判った。
「うむ……」
 思わず言い淀む。
 正直に言えば、生き残りの兵が反乱組織として活動しているのではないかという予想はあった。もしも、無傷で生き残りの者たちと合流できていたら、自分が中心となってそうしていただろう。
 だが、すでに半年が過ぎ、タカオから聞いた限り、反乱軍はガランを中心にきちんと組織され、特に齟齬は出ていないという話だ。
今更自分がのこのこと出て行くと、逆に指揮系統に混乱を呼ぶ恐れがある。
 それに、この村で生活し始めて感じたこと。
 自分たち権力者が何を行おうと、ただ日々を生きる民衆にとって、どれだけの意味があるのだろうかと、心の底から疑問に思い始めたのだ。
 極端な話、誰が将軍であろうと、あるいは王であろうと皇帝であろうと、大した意味など無いのかもしれない。
 ニッショウが滅び、ガリョウが治めることになっても、さほど変わりなどないのではないか。
 いや、むしろ戦に巻き込まれる機会が減る分、民衆は喜ぶかもしれないのだ。
 確信ではないが、迷っている。
 だから、いつかニッショウの人間が迎えに来ても、招聘には応じないつもりであった。
 だが。
 ぐっ、と着物の前あわせを握りしめる。血の気を失って白くなっていく手が、そこに込められた力の強さを雄弁に示していた。
 そこに鬼がいる。獣がいる。
 復讐しろと、咬みつき引き裂けと吠える。
 スノウはそれに抗う術を保たなかった。
老人が残した言葉も、ケイに施された慈しみも、子供たちの笑顔すら、スノウの内から焼き払われた。そのことにすら、スノウは気がついていない。
 その心中を支配するのは、どこまでも重苦しくまとわりつく府の感情だった。
「行く」
 鬼を、獣を解き放つ。
 解き放たれれば、最早獲物の喉笛に食らい付くまで、立ち止まりはしない。
「スノウさん……」
 その後に続くはずの言葉はケイの口を出る前に立ち消え、伸ばそうとしたその手は、スノウの背中に触れることは無かった。
 
 翌日、、スノウはタカオを連れて旅立っていった。
 スエは大泣きをしてスノウを困らせたが、その歩みを止めることはできない。
 すまん、と言葉だけを残して出発するスノウを、ケイと子供たちは村の外れまで見送った。 一度も振り返らずに去っていくスノウの背中を、ケイたちはいつまでも見つめていた。 
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