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「乾いた掌」16

日付が変わる前にポストしたかったんですが、遅れてしまいました(^_^;)。

今日の内に何本上げられるかなぁ。

「心配せんでいい、ただの寿命じゃよ……」
 離れに敷かれた布団の上で、先程までの元気さからは想像もできないほど弱々しい声で老人は言った。
 枕元にはケイとスノウ、それに子供たちが集まっていた。
「すまんの、ケイ。迷惑をかけるつもりは無かったんじゃが……」
「水臭いことはなしです。お爺さんは家族の一員だと、ずっと前から思っていますから」
「ありがとうよ、本当にな……」
 死相が色濃い老いた瞳に、雫が光った。
「自分の家に戻るまでくらいは保つかと思ったんじゃがな。年は取りたくないもんじゃ……」
 冗談じみた口調で、隙間風のような笑いを漏らす。
「無理して喋るな、爺さん。今は休んだ方がいい」
「今更多少休んだところで、大して変わらん。……すまんの、スノウと二人で話をさせてもらえんか?」
 それが老人の最後の望みになるだろうことを感じたケイは、黙って頷くと子供たちを連れて離れを出て行った。
 襖が閉まる音がして、部屋の中にしばし沈黙が落ちる。
「わしはな、スノウ……」
 ぽつりと老人が口を開く。
「ガリョウで宮廷付剣術指南じゃったと言えば、ニッショウの将軍だったお前さんなら、心当たりがあるじゃろう」
「うむ……」
 十年前まで、剣聖とまで称された男がガリョウにいた。名はテッシュウ。
 その名は広く知られ、剣を手にとるもので、その名を知らぬ者は皆無だろう。立志伝中どころか、ほとんど伝説に近い人物だ。
 だが、その事実を知らされたスノウに驚きは少なかった。その実力から言って、老人の正体の候補は片手で足りるし、さらにその中で隠遁生活を送っている可能性のある人物となると、その名前くらいしか心当たりは無かった。
「ならば、わしがその職を辞した理由も知っているか」
「うむ」
 伝聞ではあるが、弟子の一人が乱心し、大量殺人を犯したのだ。その人数は三桁を超え、歴史に残る大罪人になったという。
 その事件が一応の解決を見た後、テッシュウは自ら「人を導く資格無し」と烙印を押し、職を辞して首都から姿を消したという。
「その弟子を捕まえたのは、わし自身じゃった……。わしはな、過ちを犯した弟子を斬り捨てることができんかった。わしは結局独り身じゃったが、わしはそいつを息子のように思っておった。奴がああなってしまったのは、わしのせいなのかもしれん。わしがもっとしっかり導いてやれていれば、あんなことにはならなかったのかもしれん……。あいつは今もガリョウの牢獄に繋がれておるはずじゃが……」
 ふと老人は一度眼を閉じ、しばらくそうした後暗い天井を見上げた。
「わしは、今でもわからん。自分がどうするべきじゃったのか。情けないことにな……。ただ一つ言えるのは、あの一件以来、わしはずっと悩み、後悔し続けてきたということじゃ……。のう、スノウ」
 首を捩り、老人はスノウをひたと見つめる。
「お前にも後悔はあろう。じゃが、そんなものは忘れてしまえ。いくら後悔しようとも、地に落ちた雨が天に還らんように、それも帰ってなどこんぞ……。その時その時を生きる、それしかない。それ以外には無いんじゃ。そうせねば、わしのように後悔を抱いて逝くことになるぞ。お前さんにはそうなって欲しくはない……」
 またも老人の顔に虚ろな笑いが溢れる。
「……情けないもんじゃな。剣聖よと祭り上げられた男が、つまらん後悔に身を焼かれ、苦しみながら死んでいく。つまらん。つまらんの……。お前はそうならんでくれ……」
 もはやその口調は朦朧としたものになりつつあった。荒い息を繰り返し、苦悶の表情で目を閉じたあとも、うわごとのようにぶつぶつと呟き続ける。
 明らかに危険な兆候だった。
 スノウがケイを呼ぶ。
 にわかに離れが騒がしくなる。
 そして、老人の目が、次の朝日を見ることは永遠に無かった。

           3

 老人の葬儀と埋葬は、村人たちの手助けもあり、すぐに片が付いた。
 老人の家には、遺品らしい遺品も、身元を証明するようなものも、まったく無かった。
 荷物らしい荷物といえば、最後の稽古に持参してきていた刀くらいのものだが、品は良い物のようだが、無銘だったそれは、剣士には死出の旅に必要だろうと、スノウの手によって一緒に埋葬された。
 墓はケイ宅の裏山中腹、よく陽の当たる場所へ立てられた。
 誰もその名を名乗ることが無かった老人の墓には名が印されず、ただこの地で生きて死んだ者がいたという証がそこにあるだけ。
 スノウは老人の出自を知らされてはいたが、結局自分からは名乗ることが無かった老人の内心を考え、誰にもその話をすることはなかった。
 ケイによれば、親しい相手の死を目の当たりにするのは、子供たちにとって初めての経験だということで、しばらくは皆衝撃を引きずっていたようだが、何日かすると徐々に明るさを取り戻していった。
 そして、夏も少しづつその色を変え、田に黄金色が広がり始めた頃。
 村に一人の男がやってきた。
「すまない、人を探しているんだが……」
 声を掛けられたスエは、瞳を瞬いた。
その男は頭から外套を被り、それなりに長い距離を旅してきたように見えた。背は少し高めで、僅かに見えるやや細い顎には無精髭が生えているが、声を聞く限りではまだ若者のようだ。スエには分からなかったが、言葉に少しニッショウの訛りがある。
 見覚えのない余所者ではあるが、不思議とスノウに似た雰囲気を感じたスエは、逃げもせずに、腰を屈めて自分と視線を合わせようと努力している男を、まじまじと見つめた。
「あの、ごめんなさい。その子口がきけないんです。なにかご用なら、あたしが聞きますけれど……?」
 少し離れていたところにいたマドカがやってきて、男とスエの間に割って入った。
「あ、そうなのか……。それはすまなかった」
 簡潔な謝罪だったが、ごまかしのない態度なのはよく分かった。それで悪い人間ではなさそうだと判断したマドカの態度が少し弛む。
「人を探しているんだ」
 そう言いながら、懐へを差し込み、しばらくごそごそとやっていた男は、やがて目当てのものを探り当てて取り出す。それは折り畳まれた小さな紙だった。
「こういう人なんだが、見た覚えはないだろうか?」
 さして大きくない紙には、墨で男の顔が描かれていた。
 良く特徴をとらえたそれは、スエとマドカには見慣れた顔。
「……スノウさん?」
「知っているのか?!」
 思わずマドカが呟いた名前を耳にした瞬間、男は劇的に反応した。
「頼む、教えてくれ! どこで、どこで見たんだ!」
 男は人相書きを放り出し、マドカの華奢な両肩を掴んで揺さぶった。
「あ、あの……! すいません、痛いです……」
「あ、す、すまん」
 マドカの抗議で我に帰った男は、慌てて手を離す。どうやら男が探している相手というのはスノウで間違い無さそうだ。
 少しの間、マドカは考え込む。目前の男は悪人には見えないが、果たしてスノウの元へ案内して良いのかどうか判断がつきかねた。
 黙って考えているマドカが何かを言い出すのを、男はじりじりと待っている。一応自制はしているが、焦りが煙のように全身から吹き出ているのが目に見えるようだ。
 どうすればいいのだろう? 一度戻ってケイの指示を仰いだ方がいいだろうか。
 そう思ったマドカの横を、スエがてくてくと進み出て、マドカが止める間もなく男の手を取って歩き出した。
「なんだ? 案内してくれるのか……?」
 いまいち自信なさげに男が問うと、スエが細い首を大きく縦に振る。
「ちょっと、スエ……」
 マドカが言葉を挟む間もなく、スエは男の手をぐいぐいと引っぱっていく。
「そ、そうか。ではすまんが頼む」
背の低いスエに手を引かれているため、腰を屈めた状態で男は窮屈そうに歩いていく。見るからに腰が痛くなりそうな姿勢だが、とりあえずでもスエの手を解いて体勢を整えればいいものを、窮屈そうなままひょこひょことついていく男の妙な人の良さに、マドカは少し笑って後を追っていった。
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