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「乾いた掌」14

なんとか日付が変わる前にポスト。

「護りの刃」の構成も、ある程度まとまったので

こっちもボチボチ完結に向かって動こうかと思います。

 取り立てて大きな事件もないまま、しばしの時間が過ぎた。
 スノウは村で暮らし始めてから、気付いたことが一つある。
 長い間対立していた国の片方が倒れるというのは、後年の歴史書に記されるほどには大きな出来事だろうと思うが、スノウが村に来て以来、村人たちの生活は目に見えた変化が起きていない、という事実だった。
 村人たち、老人やケイを含めた人々は、毎日の生活のため、明日の準備のため、その日その日を生きている。ガリョウでも国境に近い地域のせいか、ガリョウ中心部の話はほとんど入って来ないが、それで困ることはまったくない。
 だが、それは村人たちが愚かであるということにはならないし、恥ずかしいことでもない。むしろそれこそが生きるということに忠実な態度ではないのかと、スノウは考え始めていた。
 それに比べ、権謀術数に塗れ、領土を奪い合い、実体のない駆け引きを繰り返していた、かつての己が生活こそ、虚ろと言えるのではないかと感じる。
 カハタで暮らし始めて半年が過ぎ、初めは余所者を見るものだった村人たちの目も、少しずつ隣人を見る目に変わりつつあるのを実感する今は、尚更強くそう思うのだ。
 季節は夏の盛り。村に魂送りの時期が近づいていた。
 霊送りの祭りは、ニッショウ・ガリョウ両国に共通する大きな祭事の一つで、秋の収穫を前に、先祖の霊への感謝と収穫の無事を祈るのが目的である。
 裕福とは言えない農村であっても、年間の区切りとして重要な祭りなので、カハタでも小規模ながら祭事の準備が進んでいた。
 元を正せば土着の原始宗教に端を発する祭りだが、大地母神教では他宗教に対する排他的傾向は皆無のため、ケイたちも霊送りの準備を始めている。
 準備とは言っても、生活に余裕があるわけでもない中で、やることと言えば川へ流す小さな灯籠作りくらいではあるが、それでも子供たちは楽しそうに灯籠作りに励んでいた。
 スノウもいくらかその手伝いをしたが、灯籠自体は単純な構造をしているものの、その材料から準備するとなれば、それなりにやることは多い。
 骨組みを作るための竹を調達し、灯りに使う油を油菜から絞り、灯籠に貼る紙を漉いて、その紙に絵を付けるための染料を草花や石から調達する。
 その生い立ちから、普通の生活を体験したことのないスノウにとっては全てが新鮮で、灯籠を乗せて流すための草船の材料を笑顔で集める子供たちを見つめる目も、自然と優しくなっていた。
 そして、新月の夜。村はずれの川の淀みに集まった村人たちは、思い思いに灯籠へ灯を入れ、草船を流していく。
 それは静かに幻想的な風景で、ひどくスノウの心に染み込むものだった。
 やがて灯りの群が遠ざかり、村人たちが三々五々に家路へつく頃になっても、スノウはじっと川の水面を見つめていた。
「スノウさん?」
 じっと川面を見つめてたまま動かないスノウへ、ケイが訝しげに声をかける。
「ん……いや、すまんな。もう少しここにいたいのだが」
「はい、構いませんよ。では私は子供たちを連れて先に帰ってますので。暗いから、足下に気をつけて帰って来て下さいね」
 最近のスノウは足を引きずる仕草がほとんど無くなり、精神的にも落ち着いているのが、端から見てもはっきりとわかるようになっている。
 しばらく前であれば、ケイは絶対スノウを一人にしなかったであろうが、今はすっかり安心しているようだ。笑顔で言って、先に引き上げていく。
 残ったのは、スノウと、その足下へまとわりつくスエだけだ。
 やがて完全に灯籠は流れ去っていき、当たりは星明かりだけになる。
 夏の湿気を払うようにふわりと風が流れ、虫除けに着物へ炊き込めた香草の臭いがスノウの鼻をくすぐった。
 その時、ぽつりと小さな光が川面に現れた。
星明かりのように小さなそれは、見る間にその数を増やしていく。
 ほんの短い時間の間に、川端には地上の星空が現れていた。
 それらの小さな光はゆっくりと明滅し、さわさわと小さく蠢いている。
 河原の石に腰を掛けていたスノウの膝に乗せられたスエの小さな尻が、驚きにもぞりと動く。
 すると、光の一つがふわりと飛んできて、スノウたちの周りを飛んだ。
「蛍か……」
 その僅かに緑がかった光の正体を、スノウは口にする。
 どうやら、人の気配感じて息を潜めていた蛍たちが、日常の営みに戻ったもののようだ。
 それは先程までの灯籠の群に負けず劣らず、美しい幽玄の場だった。
 しばらくその風景を眺めていたスノウの胸に、古い記憶が蘇る。
「俺の氏はカクギョウというのだが」
 膝の上で静かに興奮しているスエへ、スノウは静かに語りかけた。
「蛍を獲る、と書くのだ」
 意味がよく判らないのか、スエは不思議そうにスノウの顔を見上げる。
 スノウの目はスエを見ておらず、また、目の前の光景を見ているわけでもない。
 その瞳は、過ぎ去った遠い昔を見つめていた。
『カクギョウ? どんな字を書くの?』
『蛍を獲る、と書きます、姫様』
『ふうん、変わった氏ね』
 その氏を選ばせた理由である少女は、それに気付きもせずにそう言った。
 ほろ苦く、スノウは微笑した。
 思い出したとて、詮ない記憶だ。
 だが、忘れてはならない記憶でもある。
 それは己に課した、罪の烙印として、生涯背負っていかなくてはいけないもの。
「……そろそろ帰るか」
 スエの両脇を持ち、そっと河原へ下ろしたスノウの視界に、何かが入ってきた。
「?」
 なんとはなしに、そちらへ目を向ける。なぜか、ぞくり、と背筋を寒気が走った。
「……子供?」
 五間ほど離れているだろうか。
 蛍が群れ飛ぶ河原に、仄白い小さな人影が立っている。
 どうやらスエよりも幼く、目鼻立ちははっきりと見えないが、スノウはその顔立ちに見覚えがあるような気がしてならなかった。
 じっとりとスノウの背中と額に脂汗が滲む。
 キンと耳鳴りが頭の中へ響く。
 小さな人影は、どこか哀しげな雰囲気で、なにかを伝えたいのか口元を動かした。
 その時、スエが突然スノウの手を引く。
 はっとして、スノウはスエを見た。
 スエが心配そうな目で自分を見上げているのを見て、スノウははっきりと我に帰る。
 そしてすぐに目を人影へ戻した時には、仄白いその姿は跡形もなく消え去っていた。
「一体、なんだ……? スエ、お前は見なかったか?」
 ほんの少しの間だったが、呆然としていたスノウが尋ねるのに、スエは何を言っているのかわからないと言うように首を傾げる。
 スエがとぼけているとは思えないし、あれが単なる自分の見間違いとも思えない。ということは、あれは自分にしか見えていなかったということになる。
 そこまで考えたところで、頭の芯がズキンと痛んだ。
 ……幻覚か?
 再度スノウは人影がいた場所へ目をやるが、そこには蛍が光の尾を引きながら飛び交っているだけだった。

           2

「頭を打ったことが原因で、幻覚を見るということはあるのだろうか」
 霊送りから数日後、スノウはふとケイに尋ねた。
「そういう症状が出ると聞いたことはありますが……。幻を見るのですか?」
「む……」
 あれ以来、同じような幻は見ていないし、その気配もないようだ。だが、あの夜に見た姿は、スノウの脳裏に焼き付いて離れないのだった。
「一度だけな。大丈夫だとは思うが」
「そうですか……。表の怪我は治すお手伝いができますが、内側のこととなると少し難しいですね。吐き気や、頭痛はどうです?」
「その時にだけ少し痛みがあったが、それ以来は一度もない」
 しばらく考え込む仕草を見せていたケイは、やがて息をついて顔を上げた。
「考えていても仕方がありませんね。今すぐにどうこうということは、さすがにないとは思います。しばらく様子を見ましょう。少しでもどこかおかしいと思ったら、遠慮せずにすぐ言って下さいね?」
「うむ、すまんな」
「いいえ」
 明るい笑顔で答えるケイ。
 あの一夜以来、一度も関係を結んではいないが、より自然な関係で頼り、また頼られているという実感があった。
「スノウ、おるかの?」
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