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「乾いた掌」13

こちらもボチボチ再開。

ちょっと短めですが(^_^;)。

更新予定は、口にすると狂うので黙っておきますw
        二章・ナガレユクモノ

            1

 結局、老人が出した課題ができるようになるまで、半月ほどの時間がかかった。
 スノウ自身はかなり時間がかかってしまったと思ったが、老人の前で言われた通りに歩いて見せると、老人は大いに驚き喜んだ。
「凄いの、お前さん。わしゃあ、できるようになるまで丸一月はかかると思っておったよ。やはりお前さん、素質がありそうじゃなぁ」
 悪戦苦闘しているうちは、まさしく暗中模索の極みだったが、できるようになった今では、なんでこのようなことができなかったのだろうと、スノウは不思議に思っていた。
 そう正直に老人へ言ってみたところ。
「そういうもんじゃ。逆に、解らん奴には一生解らんたぐいのもんじゃよ」
 という言葉で、笑い混じりに片付けられてしまった。
 とっかかりができれば、そこを手がかりに次へといける。さらにそこから進めれば、それまでの経験でさらに進みやすくなる。
 老人の教え方は、押しつけがましくなく、スノウ自身に考えさせることを眼目に据えているようだった。
 スノウが行うことを注意深く観察し、その都度丁寧に修正するが、こうしろああしろとはほとんど言わない。
 以前、王都にあった剣術修練場を見学した時の経験から、スノウが想像していたような、軍隊じみた訓練でないことは驚きだった。
 身体を鍛え抜く肉体鍛錬に類するものもほとんど行わないため、やや不安になりつつも老人に質問した。
「身体の力なら、お前さんほどもあれば、後は必要以上に鍛える必要もないわい」
 そう答えつつ、老人がスノウに徹底的に仕込んだのは、身体の運用方法。それは操縦法といってもいい。
 ほんのちょっとしたコツ、感覚のとらえ方、使い方に関することだ。
 それらはほんの些細な気付きだったが、それを知った後、できるようになった後では、スノウの動きには雲泥の差が現れた。
 知れば知るほど、数十年を共にした自分の身体を、ほとんど知っていなかったことを思い知らされる。
 老人が実演してみせる身体操作に比べれば、自分の動きなど児戯にも劣るとスノウは認めざるを得なかった。
「お前さん、そういうところが素直じゃのう。教え甲斐があるわい」
 熱心に老人の話を聞き、それを実践しようとするスノウに対し、老人が笑みを深める。
 劣っていること、優れているもの。それらを認める気持ちがあれば、次はそれを吸収するだけだ。スノウには、そういう学習者として理想的な精神的素養があるようだった。
「将軍なんぞという立場にいたそうじゃから、もうちょっと頑固なのかと思っておったよ」
 雨期が終わった空は青く晴れ渡り、輝く陽光が地上に降り注いでいる。
 教えを受け始めて二月が過ぎ、すでに生活の一部になっている鍛錬の合間に、縁側に座った老人がしみじみとスノウへ言った。
 刀の抜き打ちをしていたスノウは、手を休めてほろ苦い笑みを浮かべる。
「俺はもともと孤児だからな。少しでも有益なものは、多少無節操でも取り込んで来なくては、成り上がることは難しかった。それに、他の優秀な人間が育ってくれば、いつでも捨てなくてはいけない地位でもあったしな。なにより、戦場で死んでしまえば、役職などあの世にまで持って行けるはずもない。そんなものを盾にする意味などないだろうよ」
 訥々と話すスノウに、老人もまた苦笑いを浮かべる。
「ま、そりゃ事実は事実じゃろうがな。そう割り切れるものは少数じゃろうなぁ」
「そういえば、今更なんだが」
「なんじゃ」
「爺さんを、師匠と呼んだ方がいいのか?」
「ほんに今更じゃのう。かまわん、かまわん。弟子だの師匠だのというのも、所詮は役割の話じゃ。わしが教えたいから教える。お前さんは習いたいから習う。それ以上でも以下でもないわい」
 からからと笑った老人だったが、ふと顔を曇らせた。
「そういうのも有効な時はあるんじゃがな。……まあ、わしは師と呼ばれる資格があるほど、大した人間じゃないからの」
 最後の呟きには、疲れ果てた人間特有の倦怠感がまとわりついていた。
 ──この老人もまた、なにか後悔を背負って生きているのだろうか。
 ふと、スノウはそんなことを考えた。
 物腰にしろ、その身につけた技にしても、世に埋もれたままいたはずはない。ひとかどの人物だったのではないか。
 名を名乗らず、偽名すら使わないのは、きっと意味があるのだろう。それは、少しでも周りの人間を偽りたくないからなのかも知れない。
 いつか、聞く機会があるかもしれない。それまでは黙っているのがいいだろう、きっと。
 老人の呟きを聞かなかったことにして、抜き打ちを再開しようとしたスノウの視界に、こちらへ駆けてくるスエの姿が入った。おそらく昼飯で呼びに来たのだろう。
 スノウがそちらへ顔を向けると、スエが嬉しそうに足を速め、手を振った。
 その瞬間、足下の石に躓き、小さな身体が宙へ泳いだ。
 スノウとの距離は六間。どれほど素早く動こうとも、到底届くはずもない距離。
 危ない、とスノウが思った時には、スエが目の前にいた。
「?!」
 自分が何をしたのか理解する間もなく、スノウはふわりとスエの身体を受け止める。
 スエが驚いた表情で、何度も瞬きをした。
 寸前までスノウのいた場所に置き去りにされた刀が、かしゃんと音を立てて地面へ倒れる。
 スノウに自覚はなかったが、今の一瞬で六間の距離を移動したものらしい。
 膝に痛みは微塵もない。自分が行った動きだというのに、なによりも自分自身が理解できず、スノウは混乱した。
「ほう」
 老人が軽く感嘆の声を上げ、にやりと笑った。
「使えるようになってきたのう」

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剣の描写は・・・

 こんばんは。
 掲載途中に失礼します。

 今後、物語がどうなっていくのか、今からとても気になります。
 作成中だと思いますので、感想は遠慮させていただきますが ^ ^

 ところで、前々から思っていたのですが、shibatayaさんのお話は、戦いの描写や訓練の描写がとても丁寧ですが(といってもすべて読ませて頂いてるわけではないですが^ ^ ゞ )、本などの知識をもとに書いてらっしゃるのでしょうか。それとも、何か習っているとか。

 今回、特に気になったのでコメントさせていただきました。
 とりあえず、のんびり続きをお待ちしております。

re:イ子さま

絶賛放置中なところですが、ご訪問ありがとうございますw
一応心得程度に色々と嗜みは無くはないです。
ただ、本分としているものは、正式に入門して習ったわけではないので、何をやっているのか・誰からか、は先方のご迷惑になるかもしれないので、申し訳ありませんが伏せさせていただきます。
大層な話ではないのですが、不特定多数が見る可能性のあるところに書くと、思わぬトラブルの元になったりするので(^_^;)。
手に入る限り、その手の本には目を通すようにしていますし、個人的に過去の武術者のエピソードが好きで調べたりするので、その影響もあると思います。

No title

やはり心得なり武術家さんのお話を読むなりの下積みがしっかりされてるんですね。

ありがとうございました! ここまでの描写力は難しいですが、私も少しでも関連書物を調べて下積みをしたいなと思います。

再re:イ子さま

個人的にですが、専門的な知識や経験が発想の妨げになる場合もあるので善し悪しだと思います。
本格的なものであれば、それに関してある程度の下調べなり、勉強なりが必要かとも思いますが。
名作アニメ「チキチキマシーン猛レース」は、制作スタッフが誰一人車の免許を持っていなかったとかw だからこそ、荒唐無稽で自由な発想が出来たそうです。
3Dの動画なんぞ作っていると、そういう「発想の固着」を実感しますね(^_^;)。
感嘆に言っちゃえば、どうすれば「らしく見えるか」が重要で、「実際どうか」は大して重要じゃないんじゃないかなぁというお話です。
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Author:shibataya
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