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「乾いた掌」12

良い感じに詰まってますなぁ。

基本的に、自分にとっての作業は「怠けたがる自分自身との闘い」

が主であって、他はほとんど何も無いんですなw

滞るのは自分に負けとるわけです(´・ω・`)
            5

「いや、言い出したのはワシじゃからして別に構わんがの。どういう心境の変化じゃ?」
「……ここで暮らそうかと思ってな」
「ほう」
「この壊れた膝でも刀は振れる、と言っていたな。本当か?」
「お前さん次第じゃがの」
「では、御願いしたい」
「ふむ」
「いざという時なにもできんでは、あまりにも情けないのでな……」
「ま、よかろ。わしもいつまで生きとるかわからんしの。また先日のようなことがあったら、今度は都合良く居合わせるとも限らんし。代官が変わらんうちは、少なくとも野盗はこんとは思うが」
 冷めた茶を飲み干し、老人は離れの縁側から立ち上がった。
「時間は空いておるのかな? 都合が良ければ、さっそくにでもやるかの」
「すぐか」
「早い方がよかろ」
 にかっと笑う老人に頷き返し、刀を手に下げてスノウも縁側から庭へ降りる。
「では、まず刀をよこせ」
 くいくいと手招きする老人へ、スノウは刀の柄を向けて差し出した。
 受け取った老人は、しばらく重さを確認するように、刀の鞘尻を天に向けてゆらゆらと上下に揺らしていたかと思うと、不意にひょいとスノウに突きを繰り出す。
 それは速くも鋭いようにも見えなかったが、スノウがそれに気がついたのは、胸の真ん中を鞘尻で突かれてからだった。
 重さもなく、さほど力も入っていない一撃だったが、身体の芯を押されたような奇妙な感触を感じたスノウは、その瞬間にあっさりと大きく体勢を崩す。
「?!」
 慌てて右足を送り、倒れかけるのを堪えようとしたが、足を着いた途端膝に激痛が走り、そのまま地面に転がってしまった。
「ふむ」
 痛みに呻くスノウを見下ろし、老人がしばらく顎を手で擦ってから訊いた。
「お前さん、戦働きは多かったんじゃろ? 足をとられて転んだり、滑ったりした経験が多くはないか?」
「……確かに、思い出してみるとその通りだな。沢に落ちたのも、足を滑らせたからだ」
「じゃろうな」
 深々と頷いて、老人は立ち上がるスノウに手を貸す。
「誰ぞ師匠についたことはあるかの?」
「いや、軍に入った時に習った基本と、あとは武者修行中に身体で覚えた我流だ」
「そうか。まあ身体に恵まれておるから、特に習う気にもならんかったんじゃろな。戦働きは、そっちの方が通じたりするからの」
「どういうことだ?」
「とりあえずでもなんとかなってしまうと、工夫をしなくなるという話じゃな。まあ、膝を壊したのは、逆に良かったかもしれんの」
 不思議そうに首を傾げるスノウに、老人は笑いながら言った。
「ただ動くだけでも工夫が必要になったということじゃ。身体の頑丈さに頼った動きができなくなった、とも言えるな。入り口としては上々じゃろう」
「よくわからん」
「そう簡単に解られても困るがの」
「時間が掛かりそうだな」
「お前さん次第じゃな。解る時は一瞬じゃよ。特にお前さんは素質に関しては一級品じゃから、ワシが思っとるより、上達は早いかもしれん」
「爺さんの言うことはよく解らん。俺の頭が悪いのか」
「そんなもんじゃ。おいおい解っていくじゃろうよ。ま、とにかくやってみることじゃな」
「うむ」
「では、まずは歩き方から教えようかの」
「歩き方? まったく歩けないほど、膝は悪くないが」
「何を言っておるか。少なくとも、ワシは生まれてこの方、上手く歩けたことなんぞないぞ」
「哲学か?」
「違うな。事実じゃよ。少なくとも、お前さんよりは上手く歩けるんで、それを教えてやると言っておる。まあ見とれ」
 子供に言い聞かせているような辛抱強い口調で言い、老人はすいすいと歩いて見せる。
「解るかの?」
 スノウは腕を組んで唸った。
 普通の歩き方ではないということは、改めて見たことですぐ解った。だが、同じように歩けと言われても「違う」ことが解るだけで、どう真似したら良いのか皆目見当がつかない。
 目の前で見たことが頭の中で再現できない。スノウにとって、初めての感覚だった。
「感じたことでいいから、とりあえずなんでも言うてみい」
「……目の前で動いているのに、気配がない。間と言うか、拍子が異様に読み難いな」
「それだけ解れば充分かの。これをまず覚えてもらう」
 滑るような足取りで戻ってきた老人は、手に持った鞘に収まったままの刀でスノウの下半身をポンポンと叩いていき、基本となる姿勢を作らせる。
 簡単に言えば、腰を落とし、肩幅に開いた足を前後に軽く開いた状態だ。
 さらに微調整を加え、老人が満足げに頷く。
「さ、それで重心を真ん中に置いたまま、上体を上下左右に振らんように歩いてみい」
 スノウは言われたようにしばし色々と試して見るが、足が地面から離れる気配は全くない。
「……動けん」
「そうじゃろうな」
 悪戦苦闘するスノウを黙って見物していた老人は、あっさりとそう言った。
「できんことをやるには工夫がいる。さっき言った通りにの。これは課題じゃよ。できるようになったら、次にいくからの」
「む……」
 困り果てた顔をするスノウを見て、老人は快活な笑い声を上げる。
「そんな顔をするな。ひとつ助言をしてやろう。お前さん、ケイの説法は聞いておるかな?」
「最近は多少」
「そうか。では、大地母神説話における、この世の始まりについては聞いたかの?」
 頷く。
「この大地は、この世の果てにある、女神が姿を変えたという神樹によって支えられておるそうな。その根は、あまねく世界に伸びておるとか。つまり、大地は女神そのものと考えられておるそうじゃ」
 やや唐突に始まった話だが、なにか意味があるのだろうと思ったスノウは、黙って頷き先をうながす。
「大地母神は全ての命を慈しみ、自らの身体をなげうった慈悲深い神様なんじゃと。そんな神様を乱暴に踏みつけてはいかんと思わんかな?」
「……そうだな」
「むしろ、その御力を借りるぐらいのつもりでないとの」
「…………」
「以上じゃ」
 助言なのか説法なのか判然としない話を終えると、老人は刀をスノウへ返し、そのまま帰って行った。本当にこれが出来なければ、その先は教えてくれないらしい。
「やるしかないか」
 溜息を吐いて、老人に教えられたことを慎重に確認しながら、スノウは見た目にはまったく動いていないように見える悪戦苦闘を再開した。

 やがて日が暮れ始め、夕食の準備が終わったケイが呼びに来るまで、スノウはそのまま愚直に立っていた。
「スノウさん? 夕食の準備が出来ましたけど……」
「……ん、ああ」
 声を掛けられて、ようやくスノウは姿勢をもとへ戻した。
「何をやっておいでだったんですか?」
 笑顔で尋ねてくるケイ。
 あの一晩を経た後も、ケイの態度にはなんの変化も無かったし、お互いの関係に大きな変わりはないように見える。
 ほんの少しだけ、以前に比べてケイの態度が柔らかくなったような気もするが、それはスノウ自身の内心の変化が原因かもしれず、どちらなのかはっきりとしない。
「爺さんに剣を教わることにしたんだが。とりあえずできるようになれ、と言われたことをやっていた」
「なにもしないで、立っているのが剣のお稽古になるんですか?」
 皮肉でもなんでもなく、純粋に疑問に思っている口調だった。
 スノウ自身も完全に納得してやっているわけではないので、そう問われても返答に困る。
「どうなんだろうか、な。……それはともかく、今日は仕事を休んですまなかった」
「いいえ、田の方は一段落しましたし、畑と山菜採りだけなら、それほど人手は必要ありませんから。スノウさんの膝も本調子ではないでしょう……そういえば、お爺さんが帰ってから、ずっと立っていらしたんですか?」
「そういうことになるな」
「膝は大丈夫ですか?」
「膝?」
 言われてみれば、かなりの長時間、休憩もとらずに立ち続けていたのに、その間膝の不調は一切感じなかった。熱中していたから、というだけの理由ではないようだ。
 試しに膝へ体重を乗せてみると、やはり鈍い痛みが返ってくる。突然膝が完治したというわけでもない。
「動きの工夫か」
「なんでしょう?」
「いや。……あの爺さん、一体何者なんだろうか」
「さあ……? お爺さんも、あまり昔のことは話したがらないですし、こちらから尋ねるのも失礼ですから、私も詳しくは……」
 ほんの少しの影が見える表情で言葉を濁すケイ。自分自身も語りたくない過去があるからだろう。
 すぐにそれを察したスノウは、できるだけ明るい口調で話を切り上げた。
「なんにせよ、あの老人に頼んで正解だったようだ」

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