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「乾いた掌」11

せんせー。

自分が書いたものを書き写しながらベロベロに泣くのは

気持ち悪いから止めた方がいいと思いますー。

…というわけで、十枚に全然足りませんが

次段落の頭に繋げるのも野暮かなーと思ったのでここで切ります。
「真夜中に失礼します。お姿を見かけたもので……」
「……また心配をかけてしまっただろうか。とりあえず中へ。夜気は身体に悪い」
 ケイは頷いて、縁側から離れの部屋へ上がる。
「安心してくれ。少なくとも自分で自分の命をどうこうする気は、もうまったくない」
 粗末な手灯りに灯を点け、開口一番にスノウは言った。ケイが心配しているのは、おそらくそのことではないかと思ったのだが。
「あ、いえ、そのことよりも……。今日のことを気にしておられるのではないかと思いまして……」
「…………」
 まったくその通りだったので、スノウは言葉に詰まってしまう。
「何度も言いますが、気にすることはありませんよ。今日のようなことがあるだろうということは、十分予想していました。今日のは、まだ良かったと思いますよ。普通に生活していたって、あんな事の一つや二つは起きます」
 自分が毒牙にかけられようとした記憶も生々しいだろうに、懸命に慰めようとしてくれているのがスノウにも解った。
 その気持ちは尊いと思うし、そうまでしてくれることに感謝と好意を抱きもする。
 だが、そうであればそうであるほど、逆にスノウの心は沈んでいくのだ。
 スノウは罪悪感に顔を上げられずに、そのまま口を開く。
「……やはり、俺はここを出て行った方がいいのではないかと思うのだ」
「スノウさん……」
「命を助けてもらい、傷の手当ても、寝起きする場所も用意してもらった。その恩も返さないのは薄情だと思うし、恩知らず極まりないとも思う。しかしそれでも、これ以上貴女たちに迷惑をかけるのは心苦しい。申し訳ないのだ」
「迷惑だなんて。スノウさんが毎日の仕事を手伝ってくれるようになって、どれだけ助かってるでしょうか。それに、男の人がいてくれれば、子供たちにとってもどれだけ心強いか」
「……今日、俺はなにもできなかった。ケイさん、貴女は強い女性だ。俺のような者を当てにせずとも……」
「強いように、見えますか……?」
 ケイの声は、弱い灯りに照らされた暗がりを切り裂く刃物のように、場の空気を切り裂いた。
 けして大きな声でも、強い口調でもなかったが、不意に場の空気が変化したことをスノウは敏感に感じ取り、訝しげに顔を上げた。
 ケイは、じっとスノウを見つめている。
 その顔には、表現のしがたい、哀しみとも怒りとも、嘆きとも憎しみともつかない感情が交錯し──それは歪んだ笑顔に見えた。
「強くなんか、ありませんよ。もし、そう見えるなら、そうして生きてくるしかなかったからです。痛みも、悲しみも、苦しみだって感じていますよ? でも、それを他人に見せて生きたって、誰も同情なんてしてくれません。……そうです、でも、だからと言って、なにも感じないわけでも、忘れたわけでもないんですっ!」
 それは突然の、血を吐くような感情の発露だった。
「スノウさん……。今日、なぜあの男達が躊躇したのか、判らないでしょう……?」
 唐突なケイの質問。すぐなんのことか思い当たったが、スノウに理由など判るはずもない。
 豹変したケイの態度に、半ば気圧されているスノウが黙っていると、ケイはふらりと立ち上がった。
「……お見せします」
 普段の姿からは想像も出来ない酷薄な笑いを口元に貼り付けたまま、ケイは肩掛けを畳の上に落とし、夜着の帯を解いた。
 我に帰ったスノウが慌てて止めようとしたが、解かれた帯はするすると音を立てて滑り落ち、蛇のようにケイの足下へわだかまった。
 今まで感じたことのない緊張感に、スノウの喉が鳴る。
 無言で、ケイは夜着の前を開き。
 己の激しい感情の動きに、スノウがひゅっと息を飲んだ。
昏い光に浮かび上がる、ケイの身体が作る陰影は、控え目に言っても優美だった。
 細い顎から双丘に至る線と肌の美しさに、魅惑を感じない男などいないだろうとスノウには思えた。
 だが、そこから下。双丘の先端から、薄い下生えまでは──。
 ほぼ一面が、醜く溶け崩れた惨たらしい火傷に覆われていた。
 本来なら双丘の先にあるべき二つの蕾すら、跡形もなく焼け爛れた痕だけになってしまっている。
 素地の美しさゆえに、その痛々しさと無残さは筆舌に尽くしがたく、正視に耐えるものではなかった。
 スノウの表情が動くのを見たケイは、その笑みを深める。
「……醜いですか? 例えいつか子供を授かったとしても、私にはその子に乳を含ませてあげることもできないんですよ……?」
 恥じらいもなく、むしろ露悪的な快感すら覚えているかのごとく、ケイは自らの傷跡を見せつけるように、座ったままのスノウへと近寄った。
 まるで憑かれたように自分から目を離せなくなっているスノウの両肩に手をかけ、ケイはそのままスノウを布団の上に押し倒す。
 妖気にも似た威圧感に負け、スノウは抵抗らしい抵抗もできず仰向けになった。
 ケイはスノウの腹の辺りへ馬乗りになると、歪んだ笑みをさらに深める。
「……昼間の男たちは、まだまともな神経をしていたと思いますよ。この傷をつけた男たちは、泣き叫ぶ私を見て、大笑いしながら喜んでいましたよ……?」
 瘧のように震え始めた自らの身体を両手で抱き締めるケイの瞳は、もうどこも見ていない。
 その両手は、己の内から溢れ出そうとする何かを必死で抑えているようにも見えた。
「私の悲鳴を聞いて、涙を見て、笑いながら──何度も、何度も、何度も………!」
 ケイの口から漏れる言葉には、呪詛と怨嗟が充ち満ちていた。
 スノウが出会ってから、何度も触れ、慰められ、助けられた、優しさと慈愛は、そこに欠片も残っていなかった。
 スノウは湧き上がる恐怖に、悲鳴を上げそうになる自分を必死で抑えた。
 あの優しいケイの身体を裂き、得体の知れない恐怖を凝り固めた怪物が這い出してくるのではないかという妄想に震え上がり。
 そのケイの姿にすら、ある種の美しさをどこかで感じていることに強烈な嫌悪を感じる。
 だが、千々に乱れる胸中で、これが本当のケイなのだ、と囁く声があった。
 呪詛と怨嗟に満ちた姿が、ではない。
 それらを内に抱え、それでも優しさや慈愛を失わず、それがゆえに苦しむ姿が、だ。
 清と濁。
 憎しみと愛しみ。
 相反する様々なもの。
 どれもが本物で、どれもが偽り。
 それは、人間の姿だった。
 哀しく、儚く、愚かで、弱い。
 だからこそ、限りなく愛しい。
 人間の姿だった。
「ケイ……!」
 堰を切ったように溢れ出す激情に身を任せ、スノウはケイの身体を骨も折れよとばかりに抱き寄せた。
 溢れ出す憎悪がケイを壊さぬようにか。
 這い出てこようとする怪物を押さえ込むためにか。
 それとも──。
 乱暴にしているのか、壊れ物のように扱っているのか、スノウ自身にも解らないまま、ケイの身体を床の上に組み敷いた。
 どんな言葉も、互いの真情を語るには足りない。
 そっと漏らした言葉が、どのような形をしていたのか誰も知らず。
 唇が重なる。
 ケイの唇から、熱い吐息が漏れた。
 じり、と小さな音を立てて灯りが燃え尽き。
 部屋は闇の中へ沈む。

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