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「乾いた掌」8

ちょいと反則ですが、UP。

毎日更新は努力目的ということで。
 他の子供たちも皆そうなのだが、スエも戦災孤児で、ケイに出会った時にはもう喋れなかったそうだ。幸いにして、スエ以外の子供たちは皆健康体だが、戦災によって家財・健康、そしてもちろん平穏を奪われるものは、大人子供を問わず無数にいるのだろう。
 俺も、それに手を貸していたのかもしれん。
 腰に差した大太刀に手を触れ、少しの間スノウは物思いに沈んだ。
 おそらく自分は兵であった。戦働きもしたに違いない。
 ならば、子供たちを孤児にした責を、自分も背負っているのかもしれない。いや、背負っているのだろう。
 杖を突いていても、右膝には踏み出すごとに鈍い痛みが走る。
 ケイの治療のおかげで日に日に良くなって来ているが、まともに歩けるようになるには、まだしばらくかかるだろうし、完治はしないのではないだろうかと感じる。
 記憶が戻る兆しも、まったくないままだ。
「おお、歩き回れるくらいには治ってきたか」
 ぼんやり小さな祠と走り回るスエを眺めていたスノウは、不意に近くから声を掛けられたことに驚いて振り向いた。
「久しいの」
 日焼けした顔に刻まれた深い皺を、さらに深くしながら老人が笑う。
 スノウが目を覚ました当初はよく顔を見せていたのに、ここしばらくは見かけなかったが、スノウがそのことを尋ねると。
「田植えの時期じゃからな。わしは手持ちの田んぼが少ないからの。あちこち手伝っておった。ケイのとこの田んぼもそろそろじゃろうから、顔を出そうと思ったんじゃが」
 表情を輝かせて小走りに寄ってきたスエを、年寄りらしからぬ軽い動作で抱き上げると、老人はスノウ顔を見上げた。
「で、記憶の方はどうかの?」
「そちらは、なんとも……」
「そうか、まあ慌てることもなかろうよ。気張ってどうにかなるものでもなかろうしの。で、どうじゃ、動けるようになったなら、そっちの方は」
 と老人はスノウの腰の物を顎で示す。
 スノウは僅かな困惑の色を見せて、少し首を傾げた。
「どうだろうか」
 散歩にわざわざ差してきているのは、その辺に放置して置いて、なにかの拍子に子供たちが触れて怪我などしないようにという配慮からだ。
 老人が以前に、剣術の稽古をするなら付き合う、というような事を言っていたのを思い出しながら、膝が利かない状態で剣術もないだろうとスノウは思う。
「膝を気にしておるのか?」
 スノウの逡巡を見透かしたように、老人が訊いた。
「下半身が利かんのではな。それに、あまりここに長居するのもどうかと思っているしな」
「まだ気にしておるのか。それなら心配はいらん、と言って良いものかは判らんが、しばらくこの村から動かん方がいいかもしれんぞ」
「……なぜだ?」
「最近話が伝わってきたんじゃがな。ニッショウの都が落ちたそうじゃ。王の一族は全員首を刎ねられて、その首は晒されたとな」
「!」
 その言葉を聞いた瞬間、ずぎん、と頭の芯が痛み、胸の奥が絞り上げられた。
 傷の痛みではない。なにかが頭の中に引っ掛かる。
「大丈夫か。顔が真っ青じゃぞ」
「……大丈夫だ。どうやら俺はニッショウの人間で間違いなさそうだ」
「記憶が戻ったのか?」
「いや……、なにか引っかかりはするのだがな……」
 大きく深呼吸を繰り返すスノウの顔は、完全に血の気が引いていた。
「まあ、そういうことじゃからな。ゆっくり養生せい。ケイも、男手があると助かるじゃろうからな」
「む……」
 老人の言葉に一応は返事をしたものの、スノウは明らかに心ここにあらずな様子である。
 急激に変化した態度に驚いてまとわりついてくるスエを従え、よろめくように帰って行くスノウの背中を、老人はじっと見送っていた。

 スノウが夕餉を辞して離れに隠ったのはその晩のことだった。
 まだ台所の火を落とさないうちに、ケイは何度か離れを訪れたが、どうしたか尋ねても「なにもない」という答えが返ってくるだけで、スノウは顔を見せようともしない。
 スエに何かあったのか訊こうにも、普段のことであれば身振り手振りでなんとかなるが、少し複雑な事柄になるとそれも難しく、どうやらスエも何があったのか判らないようだった。
 釈然としないまま床についたケイだったが、どうにも眠りが浅く、しばらく布団の中でまんじりとしていたが、やがて喉の渇きを覚えて床を出た。
 春とはいえ、また夜は冷える。夜着の上に一枚羽織って台所に入ったケイは、格子の窓から離れを出て行くスノウの姿を見つけた。その手には刀が下がっている。
 どうしたのだろうと見ていると、スノウは一度振り返って母屋に頭を下げ、片足をひきずって歩き出した。
 ケイは妙な胸騒ぎを感じ、慌てて台所を出るとスノウの後を追った。
 月の頃は満月。
 青白い光が煌々と夜を照らし、灯りが無くとも歩くのに支障はない。
 スノウはどんどんと山の方へ歩いて行く。大地母神の祠がある方角だ。
 夜の山は意外なほど様々な気配に溢れ、ケイの気配を紛らわせてくれる。スノウはケイに気付かないまま、祠へと辿り着く。
 祠の前までくると、曲がらない膝を伸ばしたまま片足だけで正座の姿勢をとり、上半身をはだけて、おもむろに刀の鞘を払った。
「まさか……!」
 木陰に身を隠していたケイだったが、不穏な気配を感じて飛び出した。
「スノウさん、いけません!」
 突然聞こえたケイの声に、スノウは驚きに一瞬だけ肩を震わせたが、そのまま振り返らずに刀の切っ先を自らの腹に突き立てようとする。
「だめです!」
 無我夢中でスノウの腕にむしゃぶりついたケイは、その行動を止めようと必死の力を振り絞った。下手に暴れるとケイを傷つけてしまうと思ったのか、スノウは思いの外大人しく動きを止める。
「……止めないでくれ」
 うつむき、ケイの顔をみようともせずに、スノウは隙間風のような言葉を吐き出した。
「守るべきものも守れず、おめおめと生き残ってどうするというのか……。せめて、自分の身を処することぐらいせねば、死んでいった者たちにも、仕えた国にも申し訳が立たん……!」
 ケイは、はっと顔を上げる。
「スノウさん、記憶が戻って……?」
「御免!」
 乱暴ではないが、有無を言わせない力でケイを振りほどき、スノウは再び刃を振りかぶった。「スノウさん!」
 安全に止める方法は無かった。
 ケイは迷わず、その白刃を両手で握り止める。
 驚いたスノウが咄嗟に刀を止めたが、鋭い刃はケイの掌に食い込んだ。
「なんということを……!」
 凄まじい激痛が襲っているだろうに、ケイは気丈にも呻き声一つ上げなかった。
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