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「乾いた掌」5

やばい、寝落ちしてました。

夜にも、もう一本上げます。

ちなみに「恵(ケイ)」「河端(カハタ)」です。

      一章・「メグミヲウケル」

           1

 カハタという名の村がある。
 ガリョウ国の東、山脈の麓にある、そう大きくはない村だ。
 古くから戦闘が繰り返される国境の古戦場に近く、多少物騒ではあるものの、山脈から流れる何本かの川のおかげで土地に活力があり、農作物を育てるには適した地域だ。そのおかげで、度々戦火に焼かれることはあっても、この土地を守って生活している者たちはそれなりに多い。
 その村には、東方では少し珍しい、大地母神を奉じる小さな祠があった。
 大地母神信仰は西方の大陸伝来の教えで、由来は相当に古いが、東方では比較的最近になって入ってきた宗教である。
 普通、新しい教えは土着のものと軋轢を生じるが多いが、大地母神教は悪徳に関する戒め以外、禁忌がさほど強く無いため、思想的に東方で広く浸透している精霊信仰とも対立するところがほとんどない。
 そのおかげで両者を共に祭るところも多く、それなりに広がりを見せつつある。
 カハタにある祠は、これもまた珍しく祭られているのは大地母神のみで、作られた時期もかなり最近だった。
 祠を護っている女神官の名前はケイという。
 彼女が主に戦によって孤児となった子供たちを集め、カハタの村はずれに住み始めたのは、それほど昔の話ではない。
「行き倒れですか?」
「いや、行き倒れというか、落ち武者なんじゃろうがな」
 農作業で少し肌が浅黒く焼けてはいるが、素朴に整った顔立ちの女が小首を傾げる。
 年齢的にはとうに二十は越しているだろうが、その仕草にはどこか娘じみた雰囲気が漂っていた。少しでも化粧をすればさぞ美しく映えるだろうが、その顔には微塵の化粧っ気も無い。
「ほれ、ついせんだって、また戦があったじゃろ。その時川に落ちたかなにかしたんじゃろうな。他にもブツ切りになった死体がいくつかあったからの」
 縁側に腰をかけたやや小柄老人は、妙に手首の太い手を伸ばして湯飲みをとり、中の薄い茶を音高くすすった。
「森に入って少しいった辺りの川岸に転がっておったから、身ぐるみ剥いでやろうかと思ったんじゃじゃがな。よくよく見ればまだ生きておったでの。好きこのんで殺し合いなんぞしとる連中のことなんぞ知ったことじゃないんで、とっとと盗るもの盗って逃げようとしたんじゃが。しかしまぁ、完全に気を失っとるのに手にした得物は放そうとせんし、どうも立場のある御仁のようなのでな。助けて恩を売った方が良いかと思ったんじゃよ」
「お一人で担いできたんですか? あの方、どう見ても二十貫(約七十五キロ)以上ありますけど……
「ほほほ、足腰には自信があるでの」
 飄々と皺深い顔に笑みを刻む老人。
 山道を大の男一人担いで下りてきたのに、疲れた様子も見えないのは、自信があるの一言で片付けられるものではないだろう。
 数年前ふらりと村に移住してきていて以来、名前も名乗らない素性不明の老人だが、同じく村の新参者ということと、よく祠へお参りにくるので、ある程度ケイとは気心が知れていた。
 都から離れた狭い村で、やや閉鎖的なところはあるものの、悪人でないことさえ判れば、溶け込むのはそれほど難しくない。
 見かけによらず村の若者より力仕事のできる老人も、聖職者らしい勤勉実直さが目立つケイも、村の仕事を積極的に手伝っていることもあって、今では昔から村に住んでいたように扱われていた。
 大地母神の祠も村人の協力で建てられたものなのだから、ケイが村人から悪い感情を抱かれてないのが判るだろう。
「若い女と子供しかいないところに運び込むのもどうかと思ったんじゃがな。どうやら膝が砕けているようじゃからそう悪さもできんじゃろうし、頭も打っておるようじゃから、しばらく目も覚まさんじゃろうよ。怪我の治療をするにも、お前さんに任せるのが一番じゃしな。まあ、ワシもマメに顔を出すんでな、頼まれてくれんかの?」
「ええ、構いませんよ。これも女神のお導きでしょう」
 溢れんばかりの生気と慈愛に満ちた笑顔で、ケイはゆっくりと頷いた。
「ただ、私の『癒しの手』でも、砕けた膝の治療は少し時間がかかると思います。女神のお力を借りているとはいえ、私自身がそれほど強い力を使えるわけではありませんので……」
「そりゃかまわんじゃろ。目さえ覚ませば、使いを出して迎えを寄越してもらえば、その後の世話なんぞ考える必要もなし。少なくとも悪い人間ではなさそうじゃしの」
「?」
「いやなに、あの男、意識が無いのに、お前さんが触れた途端得物を手放したじゃろ。無意識に、お前さんに警戒を解く人間が、悪人のはずあるまいよ」
「……私のこと、買いかぶりすぎですよ、お爺さん」
「そういうことにしておこうかの」
 目尻の皺を深めて、老人は笑った。
「ケイ姉ちゃん、朝の収穫終わったよ!」
「あ、おじいちゃん、おはようございます!」
 どやどやと縁側に集まってきたのは子供たち。
 年齢は様々。上は十代半ば、下は五つになるかならないか程度の総勢六人。ケイが面倒を見ている孤児たちだった。
「ご苦労様。任せてしまってごめんなさいね、みんな」
 ケイの言葉に、子供たちが嬉しそうに笑う。
「先生、あの男の人は……?」
 内気そうな年長の少女が、自分のお下げを引っぱりながら尋ねる。
「命には別状ないわ。しばらくここでお世話することになるから、みんなもよろしくね」
 子供たち全員が元気よく返事をする。
「元気でいいことじゃ。じゃあ、後は頼むとして、一度失礼するかの」
 年に似合わない軽快さで、ひょいと縁側から下り、さして素早い足運びにも見えないのに、その小さな背中はみるみるうちに遠ざかっていった。
「あたし、まえからふしぎだったんだけど」
 年少の二本お下げの女の子が、ぽつりと言った。
「あのおじいちゃん、すわってると小さいのに、動いてると大きくなるよね」
 うんうんと何人かが頷く。
「へんなの」

          2

 目を開けると、煤で汚れた天井が見えた。
 まだ家が建てられてからそれほど時間が経っていないのか、梁の木目が見える。
 男はしばらく無反応にそれを見つめていた。
 なんだろうか、妙な違和感を感じる。
 どう見ても上等とは言えない布団の中で横になり、仰向けで天井を見つめている。別に取り立てておかしなことではない。
 しばらくそうして天井を見上げたあと、ようやく気がつく。
 ここはどこだ。
 誰かが息を飲む気配に、男は首を横に向けてそちらを見た。
 目が合う。
 開け放たれた障子と縁側。その向こうにいたのは、カゴを担ぎ、小さな手には小さすぎる鎌を持った、赤毛を短く刈った女の子だった。
 寸の間、硬直したように女の子は動きを止めていたが、すぐに慌てた様子で小動物の素早さで駆け出した。
 子供特有の瞬発力に目を丸くしていた男だったが、やがて気を取り直して身体を起こそうとした。
 その瞬間、頭の芯に突き刺さる鈍痛と、金槌で叩き潰されたかのような右膝の激痛に、声を失って悶絶する。
 起き上がれずに、小さく呻きながら身体の力を抜く。それで頭の痛みは少し引いたものの、膝の痛みは長く尾を引いた。
 どうやら骨そのものが重大な損傷を受けているらしく、痛みが無くとも歩ける状態ではないのが感触から判った。
 間断なく押し寄せてくる痛みに耐えながら、男は可能な限り冷静に状況を分析しつつ、どんな状況であれ、この状態では逃げるに逃げられないという結論に至った。
 そうして天井を見つめていると、複数の足音が近づいてくる。

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