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「乾いた掌」3

本日の更新。

どうでもよいことですが、この話の登場人物、本来は漢字名です。

穫蛍周瑙(カクギョウ・スノウ)
鷹男(タカオ)
嘉浪(ガラン)
香朧(コロウ)
枝洵(エジュン)

てな感じですね。誰得という話。

「いたぞ!」
 雷鳴に紛れて聞こえてきた声。
 スノウとタカオの間に緊張が走る。共に声の出所を目で探る。後ろと頭上──崖の上から。
 人数は両方合わせて三十人以下ということはないだろう。スノウたちが歩いてきたを追ってきているのが十人ほど。残りは崖の上から下りる道を探しているようだった。
 逃げるか迎え撃つかを考える前に、崖上から敵兵の半数が強引に滑り降りてきて、二人の進路を塞いだ。
 その際、一人が足を滑らせ、悲鳴を上げて増水して濁りきった濁流に呑まれていった。よく流れに目を凝らせば、そこに龍の様な大木や転がる大きな岩が見え隠れしている。落ちた者に命の保証はないだろう。
 だが、スノウとタカオに流れへ落ちた敵兵の命を斟酌する余裕など無い。
 敵兵を牽制しながら、一際大きく平らな岩の上に移動して、背中合わせになる。
「やれるか、タカオ?」
「は。ですが、将軍は……」
「なに、しばらく切った張ったからは離れていたが、まだ腕は落ちてはいないぞ」
 半身に負った火傷も、雨の中を歩くうちに少しは冷えた。
「いくぞ」
「は!」
 タカオの答えと同時に、敵兵たちが雄叫びを上げて斬りかかってくる。
 スノウは先頭の敵が大上段から切り込んでくる刀を抜き打ちに跳ね上げ、そのまま二の太刀で顔面を斬り裂く。
 斬られた敵兵が棒立ちになったところで、続いていた敵兵たちが一瞬足を止める。
 その瞬間を逃さず踏み込んだスノウの一撃が、動きを止めた一人の敵兵の頭を戦笠ごと両断した。崩れかかる敵兵を二人とも流れの方へ軽く蹴り出すと、二つの死体はもつれ合いながら激流へと消えていった。
 スノウが残りの敵を牽制しながら間合いを外すと、タカオも一人斬り伏せたところだった。
 多少は広めの足場とはいえ、同時に斬りかかってこられるのはせいぜい二人。しかもたった今仲間があっという間にやられ、濁流に呑まれていくのを見ていた敵兵たちの動きは、お世辞にも良いとは言えない。
 特に、手負いとはいえ、あっさりと二人を片づけたスノウの手並みに、明らかにガリョウ兵たちは怯んでいる。ぴたりと刀を青眼に構えたスノウへ進んで向かおうとする兵はいなかった。
 タカオの手並みも並ではなかったが、こちらの方が与し易しと見たか、タカオ側の敵兵は気合いをかけてタカオに躍りかかる。
「動くな」
 背中を合わせたタカオにだけ聞こえる声で言ったスノウは、己の脇の下からタカオの鎧に指をかけると、そのまま小さく素早く横へ反転。タカオに向かっていた敵たちの正面へと入れ替わった。
 そのまま切り上げの一閃で一人を逆袈裟に両断。返す刀でもう一人を袈裟切りにする。さらにその背後にいた一人も脳天を唐竹割に斬って捨てた。
 三人のガリョウ兵は悲鳴を上げる暇もなく、六つの塊と化して川へと落ちていく。
「さすがに多少腕が落ちたか?」
 感触に納得がいかないのか、少し首を傾げて呟くスノウ。
「将軍、オレは大丈夫です! ご無理をなさらないで下さい!」
「なに、少しやりやすくしようと思ってな」
 いざ修羅場となり心身が昂揚してきたのか、スノウが手負いとは思えないほどに平静な口調で返す。
 言われてみれば、今の鮮やかなすり変わりを見せられ、どちらに向かっていっても容易にはいかないと思い知らされたガリョウ兵たちの動きは目に見えて鈍くなってきている。
「さて、少し強引にでも切り抜けてしまうか……?」
 誰にともなく呟き、手中の大太刀を一振り。こびりついていた血糊が、雨粒と一緒に中へ飛び散った。
 たったいま、瞬く間に五人を鎧と共に両断したというのに、その美しい反りの直刃には刃こぼれどころか曇りも浮かんでいない。
 かつて近衛への入隊が決まった時、スノウを大層可愛がってくれていた当時の上役が、特別に作らせてくれた業物である。もう二十年近くの付き合いになるだろうか。幾多の死線を共に潜った相棒であり、またスノウ自身の身体の一部でもあった。
 状況はやや膠着状態になりかけていた。
 このまま無為に時が過ぎれば、スノウたちに不利である。そうしている間にも、ガリョウ兵の数は着実に増えてきていた。
「くそっ……!」
 タカオの口から悪態が漏れた時、状況に変化が訪れた。
 スノウたちがやってきた方向にいる敵兵の背後が急に騒がしくなる。激しい争いの気配。
 突如上がり始めた剣戟と雷雨の合間を縫って、聞き覚えのある声が届く。
「……カクギョウ……軍! ご……事で……すかっ!」
「ガラン隊長!」
 それは紛れもなく、足止めの為に残ったはずの近衛部隊長の声だった。
「将軍!」
「うむ」
 喜色満面で振り返ったタカオへ、なんとかなりそうだと頷きを返した瞬間、スノウの肩をかすめてなにかが落ちてきた。
 ごかっ! と激しい音を立て、岩場で弾み濁流へ飛び込んでいったのは、頭ほどの大きな石だった。
 激しい警戒の色を浮かべたスノウがその顔を振り仰ぐと、崖下へ下りてこなかったガリョウ兵の一部が、次々と手近の石を投げ下ろそうとしているところだった。
「タカオ! 気をつけろ!」
 タカオへ注意をうながした瞬間、いくつもの石や岩がスノウたちへ降ってきた。さらに、スノウの注意が逸れたのを好機と見たのか、数人の敵兵が斬りかかってくる。
 まさしく絶体絶命といっていい状況だったが、スノウが今まで切り抜けてきた修羅場には、もっとひどい状況はいくらでもあった。
 スノウは落ち着いて落下してくる岩石の軌跡を見切ると、素早い動きで斬りかかってきた敵の首を斬り飛ばす。
 続いて斬りかかってきた敵の頭に、落ちてきた岩石の一つが直撃したのはその時だ。
 スノウへ襲いかかったところに、一瞬にして意識を失ったその兵は死に体となり、そのままの勢いでスノウへと突っ込んできた。
 すでに迎撃態勢を整え、一撃すら繰り出していたスノウは、その急激な動きの変化に反応が遅れてしまった。
 偶然に助けられてスノウの刃を躱した敵兵は、そのままスノウへと激突する。
 その衝撃に忘れていた火傷の痛みを思い出さされた瞬間、スノウは足下に溜まっていた血だまりに足を取られた。
 しかも、折り悪くスノウは岩を避けるために川の側まで歩を進めていたところだった。
「将軍!」
 タカオの悲鳴が耳に届く。
 だが、絶望的に体勢を崩したスノウは、そのまま敵兵と共に濁流へと落ちていった。

 あっけないものだ。
 濁流に呑み込まれる瞬間、スノウの脳裏に浮かんだのはそれだけだ。
 増水した流れに放り出された後も、不思議にスノウは落ち着いていた。
 最早助かるまい。
 荒れ狂う水流に翻弄されながら、異常なほど冷静にそう思う。
 この世に生まれ落ち、物心をついた時には既になにも持っていなかった。
 己の身体と、生命のみ。
 奪い、傷つけ、その日その日を、ただ生きるために生きた。
 そんな自分が、一国の将軍にまで上り詰めたのだ。
 戦場で身体を張って生きている以上、己の命が終わるのもまた戦場と覚悟はしていた。
 今更、心残りなど……。
 その時、何かが軽く胸に当たり、スノウはそこにあるものを思い出し、急激に心臓を鷲づかみにされたような感覚に襲われた。
 そこにあったのは、あの首飾り。
 湖面のように鎮まっていたはずの心が簡単に消え去った。
 まだ、終われない。
 待っている人がいる。
 愛する相手がいる。
 新しく生まれてくるはずの生命が待っている。
 こんなところで、終わるわけにはいかないのだ。
 これが戦場に生きる者の報いだったとしても、受け入れられない。
 スノウはもがき始めた。
 兵のたしなみとし水練は身につけてはいるものの、疲労と負傷、そしてなによりも嵐のごとき流れの前にはなにほどの足しにもならなかった。
 背中が岩に叩きつけられ、多量の息が肺から絞り出される。
 周囲の闇よりもなお昏い闇がスノウを捕らえ、そのあぎとへと引きずり込んでいく。
 それに必死で抗いながら、スノウは妻の名を呼んだ。
 エジュン。
 消えゆく意識で、生まれてくる子のために用意していた名を脳裏に浮かべる。
 ユキ。
 息子と娘、両方の名を用意していたが、なぜかその時浮かんだのは娘の名前。
 そして、スノウの意識は激流に流され、やがて深い暗黒の底へと墜ちていった。
  
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No title

ひっさしぶりに小説を読ませていただきました
詳しい感想は最後まで読んでからにしますが
いつもの事ながらドキドキしながら読んでます!
後……登場人物はカタカナで良かったと思いますよ
漢字だと難しすぎて、読み詰まりしそうですから(汗)

re:藤沢澪さま

こちらではお久しぶりですw
毎度ありがとうございます。
普段使っているワープロソフトだとふりがなが使えるんですが、ブログでは使えないので…という理由が主ですが、「名前が読めん」という意見ももらったことがあるので、こっちの方が良かったかもしれません(^_^;)。
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