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「乾いた掌」2

二回目~。

特に話題もなし。

そういや、「別にファンタジーでなくてもいいんじゃね?」とか言われた話なんだよなぁ、これ。

 同時刻。
 カクギョウ将軍率いる奇襲部隊を迎え撃ったガリョウ軍本陣天幕内。
「報告致します。法術による長距離攻撃は、敵軍に対し大きな効果を上げたもよう。しかし、本陣には直撃させられなかったようです」
 兵卒の報告に、豊かな髯を蓄えた司令官は頷いた。
「ご苦労。……やはりまだ多くの課題があるようだな。ニッショウ側の動きは?」
「は、かなり混乱しているようですが、どうやら撤退の動きを見せているとのことです」
「ここで逃がすのは得策ではないかと。カクギョウ将軍の首を取る最大の好機です」
 司令官の後ろに控えていた、痩せぎすで切れ長の目をした冷淡な印象の男が口を挟んだ。
「わかっておるわ。ここで奴の息の根を止めることができれば、ニッショウ側の戦力と戦意に大きな打撃を与えられるだろうからな」
「お気をつけ下さい、カクギョウ将軍は劣勢の時ほど真価を発揮する将です。万が一にでも逃げられてしまっては……」
「くどいな。法術での攻撃が収束次第、包囲を開始するように全軍へ指示を出しておる。逃げられはせんよ。そなたの、是が非でもかの将軍の息の根を止めておきたいという気持ちも、まあ解らんでもないがな」
「……これは出過ぎたことを申し上げました」
 わずかな嘲笑を滲ませた視線を向けてくる司令官に対し、慇懃に一礼して男は一歩下がった。
「まあ気楽に構えて、奴の首が持ち込まれてくるのを待っているがいい。そなたが国を裏切ってまで持ち込んだ話だ、せいぜいこちらも上手く利用させてもらうとするわい」
 立場の高さに似合っているとは言い難い、やや下卑た高笑いを残して、司令官は天幕を出て行った。
 黙ってそれを見送った痩せぎすの男、ニッショウ軍中央軍師──元ではあるが──コロウ・カシュウは、ガリョウ側の者が全員いなくなるのを待ってから、深い侮蔑を込めてその尖った鼻を大きく鳴らす。
「俗物め」
「……大丈夫なの?」
 コロウの背後、薄暗がりの中に立っていた女が、コロウのすぐ隣まで歩み出て、その腕に自らの身体を擦りつけつつささやいた。
「あの男は下賤で愚鈍などうしようもない男だけれど、その分しぶとくて、強さだけは本当に化け物並みよ?」
 頭からすっぽりと覆面を被ったその奥から聞こえてくる言葉は、嫌悪と侮蔑に塗れていたが、美しい声ではあった。
「大丈夫でしょう」
 覆面の奥へ視線を送りながら、コロウは女の細い腰を抱き寄せて言った。
「司令官は愚かな男だが、兵はそれほど愚かな者ばかりではないし、なによりあちらの数倍の戦力があります。いくらあの男だろうが、そうそう逃げられはしないでしょう。
「そうだといいけれど」
「そうでなくては、私たちが国を売ってまでこちらについた意味がない」
「ふふふっ、そうね……」
 淫靡な香りのする笑いを覆面の奥から漏らし、女は胸元から細い鎖に繋がった首飾りを抜き出すと、鎖を引き千切って無造作に放り捨てる。
 それは、白銀で作られた鹿角の意匠が施された首飾りだった。

 雨はさらに強くなっている。
 どれだけの時間が経過したのか、どれだけの距離を踏んだのか、もう判らなくなっていた。
 曇天は重苦しく頭上を覆い、夜が明けていないのだけは確かだが、もう何日もそうして走っているような気がする。
 半身に負った火傷がひどく痛んで引きつり、足をもつれさせるが、それでも次の足を前へと送り続けていく。
 横合いから奇声を上げて敵兵が斬りかかってきた。
 最小限の動きで身体を捌いて躱す。それだけの動きでも、半身に激痛が走る。
 喉の奥で呻きを押し殺し、一刀のもとに相手が被った戦笠ごと脳天を叩き斬った。
 相手が悲鳴も上げずに地へ倒れるのも一顧だにせず、ただひたすら足を前に進める。
 怒号と血風。剣戟の響き。そして、雨の音。
 蟻の這い出る隙間もないほど厳重な包囲網を突破できたのは、わずかな者たちだけだった。
 今は十数人の武者たちがスノウに付き従っていたが、すでに追撃の部隊に追いつかれており、将軍が逃げる少しの時間を稼ぐため、全員が獅子奮迅の戦いを繰り広げている。
「御生命頂戴!」
 騒音を裂いて聞こえた声と同時に、スノウへ走り寄って来た新たな敵兵が長槍を突き出す。
 スノウは長槍を躱しざま柄を小脇に捕らえ、握った敵兵の腕ごと柄を半ばから叩き斬る。
 絶叫を上げる敵に向かって踏み込もうとした瞬間、足が濡れた落ち葉の上を滑った。
「?!」
 片腕を落とされ、絶叫しながらも残った腕で刀を抜いた敵兵が、目をぎらつかせながらスノウへ刀を振りかぶった。
 体勢を崩したところへ振り下ろされようとしている一撃は、スノウにとって致命的なものになるはずだったが。
「将軍!」
 そこへ雨の飛沫と泥を撒き散らしながら、刀を脇構えにした濃紺の鎧武者が敵の側面から体当たりのように突き込んだ。
 もんどり打って諸共に地面に転がった両者だったが、濃紺の鎧武者は素早く体勢を整えて敵兵へ馬乗りになると、鎧の隠しから抜き出した小刀をその喉へ突き立てる。
 ゴボゴボと血の混じった末期の息を吐き出す相手から素早く身を離した武者は、突き立ったままだった刀を足をかけて抜くと、それを片手に提げたままスノウへ走り寄った。
「ご無事ですか!」
 血相を変えて顔を覗き込む鎧武者とは対照的に、スノウは笑みを浮かべる。
「腕を上げたな、タカオ。やはりお前を近衛に推挙したのは間違いではなかった」
 場違いな言葉をかけられたタカオは、それでも一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに顔を引き締めた。
「ご無事のようですね。今のでとりあえず追いついてきた連中は最後のようです。さ、先を急ぎましょう」
「ガランたちはどうした」
 自らを守りつつ包囲網から脱出してきた近衛隊長の名を口にして、スノウは確認する。
「この場にしばし留まり敵の増援を食い止めるとのことです。オレには将軍の護衛につけと」
「そうか、ではいこう」
「は!」
 無駄な礼は言わず、またそれに付き従う者もそれを不思議とは思わない。
 上に立つ者も、その下に付く者も、それぞれがそれぞれに己の役目をわきまえ、ただひたすら務めを果たそうとしている。そこには確かな信頼関係があった。
「……誰か一人でもよいから、エンショウのところへ報せてくれているといいのだがな」
 増水した谷川にぶつかり、それに沿って川下へ向かって歩きながら、スノウはぽつりと口にした。
 エンショウはスノウの親友でもある左将軍の名だ。いわゆる下賤の出であるスノウに対し、部隊長になったばかりの頃から好意を寄せてくれている男である。武家の名門の出であり、その出自からくる人柄の良さに加え、軍才にも恵まれた将だが、幾度が馬を並べて戦ううちにスノウとの縁ができていた。
 当初はその育ちの良さが鼻についていたスノウだったが、お互いを意識して切磋琢磨するうちにかけがえのない友人へと変わっていった。
 その繋がりは、現在共に大軍を率いる立場となった今も変わりはない。
 エンショウは今、自分が率いる奇襲部隊が到着するのを待ち、戦っているはずである。
「大丈夫でしょう。僭越ながら、エンショウ将軍は攻め時も引き際もわきまえた方です。様子がおかしいとなればすぐ兵をお引きになると思われますが……」
 滑りやすくなっている岩場に足を取られないように先行しながら、タカオは勤めて明るく口にした。
「だが、今回の策があちらに漏れていたからには、エンショウの方にもなにか仕掛けられていないとは限らん」
 普段どちらかといえば寡黙な方である将軍から漏れる心配事に、タカオは表情を曇らせた。
 妙に勘の鋭いところがあるスノウが、そのように何か言葉をこぼす時には、本当になにかしら起こることが多いのを、タカオは経験上知っている。
 自然と言葉が途切れた。
「つまらんことを言ってしまったな。どちらにしろ、今は考えても詮ないことだ。今は先へ進むことを考えよう」
「は……」
 タカオはただ頷いて、兜のひさしに下がった雨粒を指で拭い落とした。
    
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